動物のお医者さん、最終話 完結12巻 感想
※ネタバレ注意です※
H大獣医学部の博士課程に進んだハムテル(本名西根公輝)と友人の二階堂。
同期の学生たちが病院を開業したことを知った祖母から、「博士課程なんてやめて開業しろ」と尻を叩かれます。
噂は瞬く間に広がり、先輩の菱沼さんや後輩たちは、病院の電話番号を考案したりと勝手に盛り上がります。果てはドイツに住んでいたハムテルの両親や、ペットを飼っている近所の人たちまで参戦。医師同士のテリトリーや借金と色々な問題をよそに開業話は加速していきます。
そんな中、二階堂は悩んでいました。ハムテルには土地も冷静さもあるが、自分には何もない。ついに思い余って大学の恩師(?)、漆原教授に悩みを打ち明けます。すると教授は後継者難の医師が跡継ぎを探している案件を二階堂にもちかけします。場所は西町診療所。何とハムテルの自宅近くにある診療所でした。
しかもそこは一足先に祖母が目をつけ、テリトリー問題に片がつけられると算段していた所。そうとは知らず「考えておく」と返事をしてしまった二階堂は、ハムテルの祖母から責められてしまいます。
断ろうと思いつつも診療所の院長に気に入られ、ハムテルからも「いい話じゃないか」と突き放されてしまい、断りづらい状況が続く中、西町の診療を手伝う羽目に。そこで患蓄として来たハムスターに二階堂は固まります。そう、自分が大のねずみ嫌いだと言うことを忘れていたのです。
何とかその場を切り抜けたものの、ねずみ系の患蓄が次々と来院。ハムテルにヘルプを頼み、やっと一段落した矢先、洗面所の排水溝からねずみが。雪空を悲鳴がこだまし、ねずみ嫌いが院長にばれてしまいます。
後継者の話が白紙に戻ってしまい、落胆もつかの間、院長はハムテルに開業する意志があるか尋ねます。ハムテルの答えはYES。二階堂とともに獣医が出来ればと願いを口にします。その言葉を聞いた院長から何と「機材を譲ろう」と言う提案が。ついに開業の夢が具体化されていきます(ただし、院長自身がもう2~3年働くと言う落ちがつきますが)。
自宅でお祝いパーティーを開くハムテルたち。無事にハッピーエンドと思いきや、漆原教授や菱沼さんが、今度は開業予定の病院で自分たちのポジションを勝手に決めだして、やっぱりてんやわんやで西根家の夜は更けてゆきます。
最終回はハムテルと二階堂の友情回とも言えます。いつも一緒だけど、べったりな関係でもなく、青春特有の熱さもない。でもそこには、大学で共に苦労してきた戦友ならではの“深み”があります。
「足を引っ張りたくない」と思って、結局最悪な形でハムテルの邪魔をしてしまった二階堂。表面化はされませんが、ハムテルの顔もその後は動揺しているように見えました。淡々としていても、やっぱり2人で開業したかったのだと気づくハムテル。最後に西町診療所の院長に2人開業の夢を告げたときには、ほっと胸を撫で下ろしました。
メインストーリーの合間に挟み込まれた、動物たちの呟きも注目ポイントです。「テリトリー」と言う言葉に反応して、庭に迷い込んだ猫を威嚇する祖母の飼い猫ミケ。帰ってきた両親たちが借金問題で大騒ぎをしていると、負けじと雄たけびを張り上げる鶏のヒヨちゃん。次々と来院する患蓄たちも、毛先の一本一本が丁寧に描かれ、表情豊かな動物たちがピリッとした展開を和ませてくれます。
何より、西根家のパーティー場面で「私は○○」と病院でどのポジションにつくか皆が述べていく中、腹を出しながら最後に「ワタシはチョビ」と囁くシベリアンハスキー、チョビはファン必見の可愛さと怖さのギャップでラストを飾ります。
淡白でありながら、どこか憎めないH大の面々と動物たちの大団円は、この漫画らしいほっこりしたラストでした。パーティーでは今までに登場した主要キャラクターから準レギュラーまで大集合。今までの巻を頭に浮かべながら、あるいは全巻を手に、読んでみるのもまた一興です。