砂の城、最終話 完結7巻 感想
※ネタバレ注意です※
こんなにも人を愛することが出来るのか、ナタリーとフランシスの究極のラブストーリーから愛することと感動を教えて貰えた素晴らしい作品だと思います。
人がうらやむほどお互いを愛していたナタリーとフランシス、幸せなのに儚いラブストーリーは最終話でも変わらず深い愛と切なさを感じました。
この作品は涙するシーンが多いのですが、最後は言葉にならないくらい悲しさがこみ上げてきました。ナタリーとフランシスは本当に心から愛し合っていて、それは周りの人にも明らかだし、私達読者にも明らで、幸せになるべき2人なのです。なのに、どうして普通の幸せがつかめないのか、幸せはすぐ手の届くところにあるのに、どうしてすり抜けて行ってしまうのか、お願いだから2人に普通の幸せをつかませてあげて、と作者の一条先生にお願いしたかったです。
でも別の方向から見れば、ナタリーは最後にやっと不安から解き放たれたのかな、とも思いました。
そんな悲しいラブストーリーなのですが、ナタリーが流産のショックにより記憶があいまいになってしまった暫くの間、穏やかな毎日を過ごせたのが救いでした。
彼女は、これでもか、というぐらいフランシスに愛されているのに、いつも不安に駆られていました。年齢差やそれまでのナタリーの人生を思うと仕方がなかったかもしれませんが、幸せの真っただ中に居るのに、幸せと分かっているのに、それでもふとしたことで不安が押し寄せてくるのです。
人を好きになればなるほど、人は不安になるのかもしれませんが、とてつもなく悲しい思いを経験しているナタリーは特にそうだったのだと思います。
そんな状態の彼女が、現実から離れていた間だけは、不安を感じず、フランシスのそばで安心して過ごせたのです。
彼女の親友エレーヌのセリフにすごく納得しました。
「ナタリーが幸福に見えるの…あんなナタリーを見るのははじめてなのよ。安心しきった顔をしてフランシスに寄り添うの。やさしい笑顔でフランシスだけを見ているのよ。私の知っているナタリーはいつも不安と絶望の中にいて神経のおきどころを探していたわ。幸福な時ですらどこかに影をのぞかせていた。夢の中にいる今が一番幸福に見えるの」
ナタリーと誰よりも長く時を過ごしたエレーヌが、彼女を一番理解しているのかもしれません。
ただ、やっぱりナタリーが現実の世界で、不安が無い幸せを感じられたらもっと良かったのに、と思います。
フランシスは、ナタリーの事を心の底から愛しているのは分かりました。
恐らくナタリーよりも、フランシスの愛の方が強かったと思います。
それでもやっぱり若さなのか、ナタリーの長年の孤独や寂しさまで考えが及ばなかったのだと思います。
フランシスはまだ大学生で、自分の生活にも忙しく、考える事もやらなければいけない事もいっぱいだったのは分かります。
でもナタリーのこれまでの辛かった人生を考え、思いっきり包んで欲しかったと思いました。
まだ若い彼にそれを要求するのは可哀想かとも思いますが、相手がナタリーというとても繊細で壊れやすい特別な人なのです。
彼だけではなく、周りのフォローももっと欲しかったところです。
とても深い愛情で結ばれていた2人は誰よりも幸せになれたはずなのに、それが人生というものなのでしょうか。
砂浜でお城を作っている子供だったフランシスにナタリーが言った言葉がよみがえってきました。
「人生なんて砂の城のようなものかもしれないわね。つくっても、つくってもいつの間にか波がさらってしまう」ナタリーとフランシスの将来が砂の城そのものだったのかと感じた最終話でした。
2人の最後の夜から数年後、フランシスはやっぱりナタリーをまだまだ忘れていなくて、きっと彼はナタリーへの思いを一生忘れる事なく人生を歩んでいくのだと思いました。
でもそんな彼の人生に、ナタリー以上とは言いませんが、彼を癒してくれる誰かが現れる事を心から願っています。
ナタリーは大丈夫、天国でお父さんフランシスと穏やかな日々を過ごしているはずです。
来世があるなら、2人に普通の幸せな家庭を約束してあげたいと思いました。