その後のゲゲゲの鬼太郎、最終話 完結3巻 感想
※ネタバレ注意です※
国民的妖怪漫画のゲゲゲの鬼太郎。
小学校に通っていたこともある鬼太郎ですが、その後は高校生になり田中ゲタ吉と名乗ります。
その後のゲゲゲの鬼太郎は高校生となった鬼太郎が野球部に入ったり相撲をとったりエッチな話もあったりとかなりニンゲン鬼太郎を出してきている反面、
宇宙人やオカシナ方々、もちろん妖怪も交えて繰り広げられる短編集になっています。
ちゃんちゃんこも健在ですが、ゲタ吉を名乗る鬼太郎はボーダーTを着用し、少し身長もすらりとしています。
そんな短編集の第三巻目の最終話が「海坊主先生」!
水木先生もうむちゃくちゃで笑えます。とても楽しいです。鬼太郎は普段通りゲゲゲの森におり、鬼太郎ハウスで「自殺の友」という新聞?のようなものを読んでいます。
海坊主村の子どもの自殺数が異常との記事に鬼太郎は真相解明に乗り出します。
ねずみ男は「子どもが自殺するのはあたりまえ」で今まで少なかったのが異常であると言い、私も2人の子どもの親として身がひきしまる思いです。
ねずみ男からしたらこの世はそういうものなのですね。
自殺をくいとめようと動き出す鬼太郎に対しても「異常性格ってやつだよ」と理解をしめしません。
ここの掛け合いは、愛と正義が己を突き動かす!というヒーロー鬼太郎と、ドライで一銭にもならないことはしないねずみ男とのかけあいが絶妙で2人があるべき立場を際立たせています。
「死にたいものは死なせておけばいいじゃないか、人間どうせ死ぬんだったらガタガタするなよ。」というねずみ男のセリフは戦争体験した水木先生ならではの死生観だと思います。
人間の死にドライになれない鬼太郎は一人の自殺志願の男の子と出会います。
わけを聞くと男の子の口からとんでもな小学校での教育実態が!
東大出身の「海坊主先生」が将来は勲章をもらうような人間になれと、村のPTAを抱き込み、東大を出て勲章をもらえるような人間以外は生きる資格がないという、とんでもな「勲章教育」を行っているというのです。
0点取るとギロチンが落ちてきて処刑されるギロチン教室に送られることを悲観した少年は断崖絶壁に立っているところを鬼太郎たちに止められるのですが、酒でも飲まないとやっていられないと小学生なのに、ポケットにウィスキー入ってます。
ここまで追いつめられるこの社会、これが大人になっても続くんだよ少年よ。と…私も子どもに対し大人になったら~と夢や希望を語って楽しく幸せな生活をふきこんでいますが、ほんと、気が付かないだけでみんなの頭の上にはギロチンがぶらさがってるんですよ。
さて海坊主先生は教室で猛力をふるっています、100点とれないものはキリでモモを刺すと、生徒にキリを50本買ってこい!と言っています。
疑問を唱える生徒には「成績の悪いものは人間ではないから人間の発言をしてはイケナイ。」「成績の悪いヤツはブタなのだ」と胸に刺さるお言葉を発信してしまいます。
子ども時代に聞いていたらもうとても今まで生きていなかったでしょう。
さらに給食はイワシの頭「うまいものを食うと東大に行けない」という海坊主先生理論のようです。
さて、そんな海坊主先生の耳にあのゲゲゲの歌が聞こえてきます。
私、苦しい時はいつもこの歌を歌いました。ゲッゲ ゲゲゲのゲ 朝は寝床でグーグーグー楽しいな楽しいなおばけにゃ学校も試験もなんにもない♪こんな世界があるんだ!あるんだ!といつも空想していました。
そして自分は頭の中でおばけの世界にいつでもいける、だから大丈夫だ。と生きている世界とはもうひとつ別の世界をつくって遊んでしました。
それを聞いて思わず一緒に歌い出す子どもたち!
海坊主先生は「きみたち邪教の歌をうたってはいけない」どうして先生の作った「ギロチンの歌」をうたわないのだ?と、邪教の歌!そしてギロチンの歌って!ワードに水木先生のセンスがあふれます。
さてそこから肉弾戦を経て鬼太郎の実力を知った海坊主先生はす~っと撤退するのですが、後をつけてみるとなんと海沿いの洞窟に家族と暮らしていました。
鬼太郎とねずみ男がついてきていることに気が付いた先生は家でブルマンのコーヒーでもと誘います。
まだ先生が人間の姿だったころ、先生の師が開発した進化薬は無人島のトカゲを恐竜に代えた、つまり、何億年も進化した姿になったというのです。
それは退化では?といぶかる鬼太郎たちに先生はそれがトカゲの、将来の姿であると言います。
その進化する新薬をコーヒーに入れられた鬼太郎とねずみ男は、倒れこむように眠り、目覚めたあとには、海坊主先生一家と同じビジュアルになっていたのです。
海坊主先生一家は自分たちは霊魂を食べる一番進化した生物であるといいます。
なるほど!子どもを自殺させ、断崖の下でたましいを取って食べていたんですね!
食糧を得るために、海坊主先生は勲章教育を施して子どもを自殺に追い込み妻子を養っていたということなのです。たまったものではないですね。
先生は言います。すすめば幸福になれると思っていた。と、でも幸せにはなれなかったんですね。
少し後悔しているところに、海坊主先生と同族になっても妖力の消えなかった鬼太郎が目玉のおやじと通信します。
結果、海坊主先生の師が、退化薬を開発したという嬉しい報告。
人間だったころの苗字は「臍曲」「へそまがりくん!変わり果てた姿になったね」と師が告げます。
苗字からして…。
それから海坊主先生は「尚子~悦子~」といたってまともな名前の奥さんと娘さんを呼び、この退化薬で元の姿に戻れると家族も安堵します。本当によかったです。
家族も一緒に人間を超越したものに進化させて幸せにしたいという一心でこの事件は起きましたが、子どもたちの命という多くの犠牲をはらいました。
臍曲さんは鬼太郎に深く感謝し、去っていきますが、たんなるドンパチを見たかったねずみ男には少し不満が残っています。
自分もまきこまれた当事者なのに、いつも傍観者のようなねずみ男です。
いつも通り、鬼太郎をほめたたえるのは虫たちだけです。
この静かな終わり方。すべてのことはなんでもないんだと、他者のニュースが駆け巡るたびに人間が大騒ぎしてやがてすぐに通常運転になることを水木先生が天国で笑ってみているようです。
ゲッゲゲゲゲのゲ。