ポーの一族は一話完結という形で続いていく連作マンガですが、優れた小説を読んでいるような感覚に陥ってしまう程の作品だと思います。
ポーの一族は、少女マンガの作風でありながらその領域を飛び越えた作品で男女問わずのコアファンが沢山いると聞き及びますが、それは当然のことだと思われます。
魅力は何といっても主人公のエドガーでしょう。
深く冷たい青い目と巻き毛でクールな面差しを持つバンパネラ(吸血鬼)の少年は、人の間に紛れて居ても隠し切れない異質な空気を纏う存在なのです。
百年以上生き続けてきたエドガーの観察眼は鋭く、あるいは冷酷で、弱者やこの世界に馴染めない孤独者には共感と同情と哀れみの目を向けて助けることさえあります。
少年の身体のままバンパネラ(吸血鬼)になってしまったエドガーは、大人の欲望や駆け引きには容赦ない軽蔑の眼差しを向けますが、立場の弱い少年少女には人間であった自分の姿と被る部分があるのか慈しみに似た眼差しを向けつづけます。
しかし、同情や哀れみ、共感の想いはあれど、すぐ行動を起こすような短慮さは持ち合わせていません。
彼は自分の正体が人間でないことをいつも認識しています。その点、共に旅を続けている友人のアランとは大違いです。
ずっと、相手を観察し情報を仕入れ、行動を起こす時期を伺っているのです。
そういうところも実に用意周到で、スマートです。
特に印象に残るシーンは、最愛の妹メリーベルの死後ずっと共に旅をしてきた友人のアランが消滅してしまうところです。
ガスの爆発に巻き込まれ、消滅してしまうアランの消えゆく姿を目撃してしまったエドガーはとてつもない衝撃を受け、生きる意味を失ってしまったのでしょう。
「帰ろう、帰ろう、過去へ…もう明日へは行かない」と、呟きます。
人間の世界の中で青い炎のように異質な存在感を放ち続けたエドガーが、身近な仲間を失い、人間のような弱音を吐き生きることを諦めるような言葉を口にするのはかなり衝撃的でした。
エドガーは、孤高の存在で、たった一人でも生きていけると思っていました。
アランの消滅が、エドガーの未来を決めるほど重要であるとは思っていませんでした。
しかし、本人は認識してないようですが、エドガーは人間であった時の少年の心を色濃く残したままだったのでしょう。
少年の身体の奥深くに封印された人間の魂が、エドガーにいつも語りかけていたとも言えるかもしれません。
大切な誰かのためにこそ、生きていけるというのは、この物語の隠れたテーマかもしれません。