累、最終話 完結14巻 感想
※ネタバレ注意です※
『累』は美醜をテーマにしたサスペンス漫画です。
醜い容姿の主人公かさねが、他人の顔を奪うことのできる口紅を利用し、女優として大成していく様や
そこに至るまでの苦悩が描かれています。
最終話は、これまでの展開からは想像できないほど、呆気ないものでした。
しかし、終幕までの壮絶なドラマを思えば、この幕引きは読者にとって納得のいくものだったようにも思います。
かさねは女優として成功するために、様々な犠牲を払ってきました。
友情を愛情を、時には他人の命までをも引き換えに。
自分の才能を世間に認めてもらうためには、手段は一切選ばないというスタンスで、彼女は自分が輝くことのできるステージに立ち続けました。
偽りの美で脚光を浴び、女優のキャリアを磨いてきたかさねは、犠牲によって成り立った生活を最終話で清算することになります。
最終話直前かさねは、とある舞台の稽古に明け暮れていました。
自身の秘密を知る舞台脚本家の欣悟が手掛ける舞台。その題材は「美醜」
今は亡きかさねの母が演じることの出来なかったもので、かさねにとっては思い入れの強い作品です。
彼女の役どころは醜い巫女の「宵」
その醜い容姿から、村人に忌み嫌われ迫害を受けている存在です。
幼少期より醜さで周囲から拒絶され続けてきたかさねにとって、嫌でも自分自身と照らし合わせてしまう配役。
その役をかさねは他人の美しい顔ではなく、ありのままの自分の姿で演じる覚悟で挑んでいました。
しかし、美しい女優としての積んできたキャリアは、醜い見た目で演じようとする自分には活かしきれず、稽古は難航します。
セリフは一言一句頭に入っているはずなのに、人前に出ると思うように演じることが出来ない。
周りの演者はスタッフは彼女が足を引っ張っているとささやき合い、訝し気な視線を送られ、もどかしく悔しい思いをするかさね。
お世辞にも良い雰囲気と言えない中で、それでも彼女は自分の力を出し切るために努力を重ねます。
美しい顔さえあれば、こんな思いはしない。
醜い容姿のせいで、苦汁をなめてきたかさねでしたが、ありのままの自分でいるために、さらに茨の道を進み、迷いながらも覚悟を決めて一歩を踏み出そうとする姿に感慨深さを感じました。
そして迎えた本番、観客の中に以前恋仲になった俳優の宇野さんを見つけ、動揺したかさねは落ち着きのない演技をしてしまいます。
勇気を振り絞って彼に声をかけるかさねですが、「顔を観客に晒すことを恥じるようなのであれば、役者としてステージに立つべきでない。」と冷たく言い放たれます。
もう一度見に来てほしいと懇願するかさねに、「忙しい」と一蹴して宇野さんは去って行ってしまいました。
雨の中、傘もささずにその背中を見送り、立ちすくむかさね。
共演をし、恋に落ち、役者として敬愛もしていた相手からの蔑みは、かさねの身も心も引き裂きズタズタにしました。
身をよじって泣き叫ぶ姿は、あまりの切なさに、読んでいる際にキュッと心が締め付けられました。
「こんなのは自分の演技じゃない。」
「美貌がなければ自分の才能は特別なものではいのか。」
悔しさも悲しみも、羞恥も…渦巻く感情を抑え、それでも彼女は演じぬくと決心し涙をぬぐいます。
そして、千秋楽、全身全霊をかけ挑んだかさねは、自身の殻を打ち破り、迫真の演技を見せました。
鳴りやまぬ拍手。今まで他人の顔でしか活躍できなかった彼女が、はじめて「淵かさね」として、ありのままの姿で女優になることが出来たのです。
今まさに生まれ、新しい可能性を見せた醜い女優。
しかし、誕生した可能性はいとも簡単に失われていきます。
かさねは以前顔を利用し、最終的に死に追いやった女優「丹沢ニナ」の母に真実を知られ、終演後に喉を包丁で……、その生涯を終えます。
あまりにも急であっけない終わり。
それでも、そうされても仕方ないと死を受け入れた彼女。
美醜によって人生を翻弄させられたかさねでしたが、多くの紆余曲折があった中、最終的に自分の手にしたかったものを見つけ、納得いく成果を出したように思います。
非常に数奇でドラマティックな人生の物語でしたが、最終話でかさねをめぐる、すべての人々に救いがあったようにも思いました。