星の案内人、最終話 完結4巻 感想
※ネタバレ注意です※
ものすごく田舎にあってなんの脈絡もなく突如現れる不思議な建物。中に入ってみるとそこはプラネタリウム。そこには宇宙が大好きなおもてなし好きのおじいさんが住んでいて自作のプラネタリウムを見せてくれます。色々な悩みを持つ人が偶然的にそこを訪れ、おじいさんの素朴さと星への情熱に癒されて、悩みも少しだけ軽くなって帰っていきます。
その場所はとても田舎なので人口減少が役場の悩みであり、さらに小学校も少子化で校舎の取り壊し、廃校の可能性も出てきています。最終話では、その学校の卒業生で役場の職員のセオが、野外プラネタリウムとヴァイオリンの演奏会を企画して、そんな街を少しでも盛り上げようとしています。ヴァイオリンの演奏をお願いしたのは、おじいさんのプラネタリウムに入り浸っている天才ヴァイオリニスト少年のトキオ。トキオは色々なプレッシャーから人前で演奏が出来なくなってしまい、デンマークから田舎の叔母さんの家に静養にきていますが、これがきっかけでヴァイオリンを大勢の前で弾くことができるようになるかもしれないと思います。トキオにとっては簡単ではない依頼、精神的に不安がとても大きいです。けれどもトキオは、セオの願いを聞き届け、依頼を受けることにします。それは今まで居場所がなかった自分に居場所を作ってくれたおじいさんへの精一杯の恩返しでもあるのです。
おじいさんは私利私欲のためにプラネタリウムをやっているわけではなくて、ただ星が好きだからみんなに宇宙のこと、星のことを知ってほしいからという純粋な気持ちでプラネタリウムをしています。おじいさんの宇宙や星の知識は莫大でおじいさんに宇宙や星座の話をしてもらっているうちにみんな何かしらの生きるヒントを発見します。色々悩んでいる人たちに、それでいいんだよ、間違っていないんだよといつもおじいさんが教えてくれている気がします。こうしなさい、ああしなさいという指示は一切なくてみんなを認めてくれるのです。おじいさんのその人柄を慕って辺鄙な場所にあるプラネタリウムなのですが、リピーターはたくさんいて、みんな顔なじみになっています。役場のセオもその一人です。他にも小説家の志村や、高校でいじめを受けていたアスカちゃん、クロというトキオのヴァイオリンファンの犬の飼い主の肥後さん、クロと仲良しのナノハちゃん、他にもたくさんおじいさんのプラネタリウムに通う人々がいます。
そんな中トキオにはデンマークの両親からヴァイオリンを本格的にやるならばもうそろそろデンマークへ戻ってきてほしいと連絡が入ります。更に、学校でも孤独だったトキオのことを理解して友達になってくれたナラシマ君ともなぜだかぎくしゃくしてしまいます。原因はナラシマ君にとっては親友と思っていたトキオが外国に帰ることを何も話してくれなかったことがショックだったからなのですが、トキオはそのことに気づかず何か悪い事してしまったかなと落ち込んでいます。けれども、その誤解もとけて、なかなか打ち解けられなかった叔母さんとのわだかまりもなくなり、すっきりとした気持ちで、いざ小学校での星と音楽の競演にのぞみます。
おじいさんに感謝の気持ちを伝えて、素晴らしい演奏を披露したトキオ、興奮して熱と鼻血を出して寝込んでしまうトキオですが、一つの壁を立派に乗り越えられることが出来たのだと思います。顔つきも更に凛々しくなって大人への一歩を踏み出しているような気がします。プラネタリウムの常連だった人々が演奏会にきてくれて、そのみんなも新しい一歩を踏み出そうとしている爽やかな結末です。これからみんなにどんなことが起こるのか、どんな人生になるのかは、だれにもわかりませんが、あの日あの時小学校の演奏会でトキオの演奏を聴いたこと、満点の星空を眺めたことはみんなの心に刻まれて何か特別な気持ちを共有して、これから何かあった時にもそのことを思い出して、頑張れるような気がします。読者にもさまざまな生きるヒントを与えてくれる素晴らしい漫画でした。