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オルフェウスの窓 外伝～コラージュ、後編 感想
※ネタバレ注意です※
「オルフェウスの窓」の外伝の一つであります。
コミカルなやり取りから始まる「コラージュ・後編」は、作者が変わってしまったのではないかと思えるくらい雰囲気が異なります。品格のある漆黒の髪をした青年芸術家、クリストファーと青い大きな丸い目とクルクルとしたブロンドの髪を片結びさせた裕福な如何にもなアメリカ娘のクレアとの対比はちぐはぐですが、ちょっぴり希望も感じさせます。
どんなことに関しても屈託のない考え方をするクレア、同じ女性としてとても好感が持てる、芯から可愛い人です。しかし、そんな彼女の性質をオーストリア貴族の血を受け継ぐピアニスト・クリストファーには理解が出来ません。ついにクレアの頬をはたいてしまうほどに立腹してしまいます。その一見冷徹な彼の性格はあの実の祖父である天才的ピアニストであったラインハルトの血が確かに流れていると感じさせます。重い人生を背負ってきたクリストファーには、思い付きで行動してしまうクレアに神経を逆なでさせられるのでしょう。クリストファーが一番嫌いな女性のタイプといっても過言ではないです。
しかし、彼はクレアに惹かれていくのです。寝ても覚めてもクレアのことを考えるようになってしまうのは、誰かがこの二人を結び付けようとでもしているのでしょうか。二人の思いが通じ合い、背景に描かれた簡素なベッドやサイドランプ、写真立て、小さな部屋がささやかな彼らの気持ちをあらわしています。
しかし、衝撃的な事実をクリストファーは知ることになります。せっかく、幸せになれると思った矢先にクレアとクリストファーは異母兄弟なのだと告げられてしまうのです。
「ああ、やっぱり！」ショックが読んでいる自身にも襲ってきます。
「オルフェウスの窓」に描かれた人々は決して幸せにはなれないジンクスがこの物語にも発動しているということに、がっかりさせられます。時代を経ても同じなのでしょうか。恋人たちは引き裂かれる宿命から逃れられないのでしょうか。クリストファーはクレアを力づくで自宅に帰させ、自分から遠ざけます。
時はまた数十年が経っていきます。クレアの娘の時代がやってきました。主張のハッキリとした、自立心旺盛そうな女の子です。やっぱり、ブロンドの美しい髪をしています。彼女の連れてきたパーシという青年は、漆黒の髪をした細面の背の高いピアニストの男の子、実ではありませんが、父親はあのクリストファーということです。拾われて育ててもらったということですが、他人としても良く似た親子です。静かで冷静、滲みでている雰囲気までそっくりです。
クリストファーが「息子」のことで、クレアに面会に来ました。過去、クレアにした冷たい仕打ちのわけを初めて打ち明けます。この日までクレアはクリストファーと異母兄妹ということを知らなかったのです。
クリストファーは自分と同じ不幸を義理の息子には味合わせたくなかったのでしょう。
しかし、最後にクレアの母親ドリィはセンセーショナルな告白をしてくれます。クリストファーとクレアの父親は異なる人物だと。
ドリィは夫がクリストファーの母親であり自分の親友だったマラベルを愛したことが許せなかったんだと打ち明けます。
運命が最後にハッピーになるようないたずらを仕掛けたということでしょう。
人の心の動きは時として大きく周囲の宿命を大きく変えてしまうほど、すごいエネルギーをもっていることをつくづく思い知らされます。このシリーズとしては、初めてのハッピーエンドに誘導されていきます。クレアの娘フランシスとクリストファーの「息子」パーシはもちろんのこと、クレアとクリストファーも晴れて結ばれるときがきました。
ボーイッシュなスタッフォード家の孫娘フランシスのパンツスタイルと肌を露出しないユニセックス風のデザインのウェディングドレスに大きなハット型のヘッドドレスが、新鮮でとても強く、どんな困難をも打ち破っていく力を体現しているようにみえ、後味がさわやかなエンドでした。
