機動警察パトレイバー、最終話 完結22巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話は宿敵・グリフォンとの戦いを終え、後日談的な内容です。熊耳が警察官としての立場を捨てても会いに行った内海が死亡したことで、熊耳の精神的なダメージを心配する松井刑事に対し、「うちの娘はそう簡単にはへこたれない」と語る熊耳の父。
そして、「おタケさんは強い女性だから」と語る遊馬、「人はだんだん強くなるんだよーん」「おタケさんはきっと、前よりもっと強くなって帰ってくるよ」と、野明。
ここで、特車二課の面々の、熊耳に対する信頼が語られます。最初から強い人なんていない、という野明の言葉にも強く頷けます。
続いて、香貫花からの手紙と、バドのその後。
人身売買で内海に買われ、レイバーの操縦を仕込まれ、何の悪気もなく犯罪行為を働いた子どもであるバドは、どうやらブレディ警部に引き取ってもらえそうな様子。
まともな家庭に引き取ってもらい、ことの善悪もしっかり教えてもらえそうで、本当によかったと思います。
そして、繰り返される日常。日々発生する仕事。これまで野明の指揮は熊耳がとっていましたが、熊耳不在のため、野明と太田の二人を遊馬が指揮します。
地図を見ながら打ち合わせをする野明と遊馬。と、ふとした拍子に、グリフォン戦で野明が受けた頬の切り傷が浮き上がります。
「何かの拍子に見えちゃうんだ」と、野明。
お年頃の女子の頬に、少し残ってしまった傷。
「嫁のもらい手なくなっちゃうな」と言う野明に、「ま、そんときゃおれが・・・」とつぶやく遊馬。
なぬっ!?「そんときゃおれが」、野明を、嫁にもらうと言いますか遊馬!?
これまで野明と遊馬は、デートもするし、冷やかされたら照れるし、「抱かせろって言ったら抱かせてくれるのか?」という遊馬の爆弾発言もありながら、恋愛関係であるというハッキリした描写は一切ありませんでした。
このやりとりも、ハッキリした恋愛描写と言えるかどうか?
世間一般の恋愛を描く漫画と比べると、この描写もほのかな、とてもほのかなものです。
ですが、少年漫画であるこの作品を読んできた女性読者の中には、全22巻に渡る物語の中の、ほんのわずかな「恋愛っぽい空気」を糧に、想像(妄想ともいう)を膨らませて、この二人が恋愛関係になるという期待を胸に読んできた人も多いと思われます(なにせ、連載終了から25年を経ても、遊馬と野明の恋愛関係を描く二次創作がたくさん生まれていますから・・)。
このやりとりは、この二人の恋愛関係を期待する一部の乙女チック読者の期待に十二分に応えてくれる、ゆうきまさみ先生からのプレゼントだと思います。
ゆうきまさみ先生は、パトレイバーの次作「じゃじゃ馬グルーミン☆up」では、しっかり恋愛を描いていますが、他の作品では恋愛要素をほとんど入れていません。
おそらく苦手なのだろうと推察されます。そのゆうきまさみ先生による渾身の恋愛描写。
これまで、それっぽくはあっても、そうだという決定打のなかった二人の恋愛関係に、確信を与えてくれました。
甘々でもなく、どこまでもこの二人らしく。二人の恋愛関係を夢見ていた読者としては、感謝感謝、幸せの境地です。
ちなみにこの後、野明はこの遊馬の「そんときゃおれが・・」のセリフをビックリ目で聞いておきながら、「はいー?」と聞き返します。案外あざとい野明(笑)。
「聞こえなかったらいいんだ」としどろもどろになる遊馬。太田にどやされて仕事に戻る二人。
でも、遊馬はちょっと野明が気になって、視線をちらちら・・。
もう、もう、ゆうき先生、ここまで描いてくださるなんて、ありがとうございます!って感じです。
そして、パトレイバーの起動音で、この作品は幕を閉じます。
連載当時における「近未来」を描いたこの作品。発表から30年を経過して、現代は、作品世界の時間をとっくに追い越してしまいました。
それでも今も、野明と遊馬は、特車二課は、どこかでこうやって事件に当たっているのかもしれない。そう思わせてくれるラストシーンでした。