悪魔の十三夜、最終話 完結2巻 感想
※ネタバレ注意です※
1980年代の少女漫画界におけるミステリー・ホラーの女王の一人、曽祢まさこさんのゴシックホラー「悪魔の十三夜」のラストは、恐ろしさ以上に、切なさと悲しさが心に迫るものとなりました。
シャーロック・ホームズの世界に近い19世紀ロンドン、世間を騒がせていた凶悪犯「切り裂きジャック」により、皮肉にも自らの運命を知ることになってしまったマデリンの慟哭から始まる最終話についてのお話になります。
なんといっても衝撃だったのが、マデリンも実は、「吸血鬼」と恐れられた彼女の母と同じく、子供時代に嵐の夜の強盗事件で命を落としたということになります。
ここでの「吸血鬼」とは、一般的なイメージとは異なり、他人の命を奪って吸収する、いわゆる「エナジードレイン」になりますが、この設定はRPGに登場するモンスターの特性のようで、個人的にかっこいいと思っております。
マデリンは、次第に自分の体から精気が抜けてゆくのを感じるようになります。
その特徴が、かつて母から聞いたこととまったく同じだということに気づき、そこから自分も命を落として蘇った人間なのだということを知ります。
そして、それまで自分が平然と生きていられたのは、母が二人分の命を手にすることで、マデリンに分け与えていたのがということも悟ります。
初めて自分の母の秘密を知った時のマデリンのショックと拒絶から考えると、ここでマデリンにとって母が重要な存在であったかを色々な意味で思い知らされるようで、読者にとっては悲痛なものでした。
他人の命を奪わなければ生きてゆけないことを悟ったマデリンは、幼い弟を置いて屋敷を出る覚悟を決めますが、この屋敷の主人夫婦が、絵に描いたようないじわるなのですね。
マデリンの亡き父の親戚なのですが、マデリンの母との結婚に反対していたため、マデリン姉弟に対して冷たくひどい仕打ちをくりかえしてきました。
それが、マデリンの母の怨念におびえるようになり、ついには覚悟を決めたマデリンからも「弟をひどい目に合わせたら、たとえ私がこの世にいなくなったとしても、絶対に許さない」と恐怖を植え付けられるようになります。
この親戚の女性とマデリンのバトルは、これまでもマデリンが元来の木の強さを凛として発揮していたので、見ていてスカッとするものでしたが、ラストバトルは更に相手を恐怖めいた威圧感で圧倒するシーンなので、見どころの一つと感じております。
そんな気丈なマデリンも、幼馴染のクリフ少年との別れのシーンでは普通の女の子です。
それがまた、おばさんとのバトルと相反するようにピュアで、読者の涙を誘います。
マデリンに女の子としての幸せは許されないのかと、切なくなったものです。
そして、いよいよ、マデリン親子の秘密を暴こうと付きまとってきた警部を返り討ちにして、その命を奪うことでマデリンが覚醒してしまいます。
このシーンは、本当にかっこいいのです。
エナジードレインされた被害者は、ひからびてゆく描写のため、読者によっては若干グロテスクなものを感じさせるかもしれませんが、それ以上に覚醒したマデリンのかっこよさが際立っているのです。
そして、人々の前から姿を消したマデリンですが、そのそばには、なんと母の敵である「切り裂きジャック」がいます。
母から半分以上のエナジードレインをされてしまったジャックは、マデリンの覚醒を目撃してしまい、おびえて命乞いをしてくるのです。
哀れでみじめな凶悪犯のなれの果てに同情したマデリンは、ジャックを使用人としてそばに置くようになります。
本来であれば、人間の女の子として、そのそばにはクリフ少年がいるはずなのに・・・と、またしてもマデリンの運命の重さに切なくなります。
当初は、まさかマデリンまでもが吸血鬼だなんて思いもしなかったものですから、この展開にはひたすら衝撃でした。
そして、彼女を取り巻く人々との悲しい別れで感じた、心理描写のち密さ。
曽祢まさこさんの恐怖系の作品は、グロテスクな描写以上に心理描写が大変見事なのです。
ただのゴシックホラーではない、そこに翻弄される人間ドラマとしても楽しめるものがありました。