星屑ニーナ、最終話 完結4巻 感想
※ネタバレ注意です※
主人公がロボットであるゆえに、残酷なまでのスピードで進んできた「星屑ニーナ」という物語。本作に付けられた「タイム・スキップ・コメディー」というコピーのとおり、作中の時間は数十年単位で容赦なく進んできました。
「星屑ニーナ」というタイトルに対して、タイトルの半分を担う「ニーナ」が1巻にして老衰で逝去した時には先が全く見えなくなりましたが、まさかこんな最終回に落ち着こうとは思ってもみませんでした。
最終話、無人島で対峙するのは、壊れかけのロボット=星屑と出会わなかった過去の世界のニーナ、そしてニーナと出会って命を長らえ、未来からやってきた星屑。出会ったはずのふたりが出会わなかったために、ふたりが対峙しているという状況を矛盾と呼ぶべきか、奇跡と呼ぶべきか。
そしてふたりの目の前には、そんな矛盾あるいは奇跡を無理やりにでも説明付けてしまえる存在・神様が立っています。
そう、ニーナに宇宙雷魚の餌を授けた老人は、物語の所々に登場する意味のないシュールな存在ではなく、神様だったのです。
その神様の手によって、ロボットだった星屑は人間の肉体を授かりました。
また、故意なのか天然なのか、無人島から脱出する唯一の手段であるバイクを空飛ぶ豚に変えて彼方に飛ばしてしまい、神様自身も消えてしまいます。
残ったのは、ただの女の子であるニーナと、ただの男の子になってしまった元・ロボットの星屑だけです。
この意外過ぎる怒涛の展開には一瞬唖然としてしまったものの、ロボット故に1話から絶えず一定の笑みを浮かべていた星屑の初めての無表情、そして自然な微笑みを見て、星屑がこの無人島に至るまでの苦労と大冒険を思い出し、なんだかホッとしてしまいました。
しかし、実は事態は深刻で、まず無人島から脱出する手段がありませんし、命をつなぐ食料も水もありません。
ですが、食料と水の問題は、ニーナの生来の行動力と星屑の機動力をもって、どうにか解決しました。
この間、普通の人間だったら焦ったり絶望したりするところだと思いますが、ニーナの底抜けの前向きさは健在です。
ただ楽観的なだけではなく、生き残るための工夫もきちんと積極的に行っているところが魅力的だと感じました。
そして、星屑がロボットではなくなったからでしょうか、時間が飛ぶように進んでいた本作の最終話は、時間の経過がとてもゆっくりに感じます。
場面が変わり、無人島での生活に慣れきったふたりの姿は、神様と出会ってから数年後、いえ、ひょっとすると1年も経っていないようにも見えます。
しかし、その間に星屑はすっかり人間らしくなり、むやみやたらとニーナに求婚していたことを「ボクのワガママでした」と言い切って、今はニーナの手伝いができるだけでいいとまで言います。
反対に、ニーナは自分の中に星屑への好意があることに気づき、星屑の求婚を受け入れました。
こうして、ふたりは晴れて結婚したのです。
ふたりが結ばれた(おそらく)その日に星屑が言った「ボクは昨日夢を見ました。(中略)ニーナさんより先にボクが死ぬ夢です」というセリフが印象的で、それは星屑の別の意味での夢を体現していると思うのですが、その言葉へのニーナの「そうなればいいね」というセリフもまた印象的です。
ニーナは星屑のすべてを知っているわけではありませんが、これまですべてを見送るしかなかった星屑の心境を理解してくれているのだと思います。
1巻の時点でニーナが死に、生前もニーナには決まった相手がいましたし、そもそも星屑はずっとただのロボットでしたから、このラストシーンは本当に予想していませんでした。
時を走り抜けてきたこの作品の、こんなに静かな最後を見ることができてよかったです。