花もて語れ、最終話 完結13巻 感想
※ネタバレ注意です※
この作品が、完璧なまでのハッピーエンドに至ったことがとても嬉しいです。
「花もて語れ」は朗読をテーマにした作品であり、実際、「漫画で朗読を表現する」という一見不可能にも感じることを圧巻の表現力でやってのけました。
そこに魅了されたからこそここまで読んできたのですが、実はテーマは「朗読」ではなくてもよかった(例えば音楽など、他のテーマでも物語が成立した)くらいの深いヒューマンドラマが特徴的な作品でした。
登場人物それぞれに人生があり、みんなが深い傷とともに大切なものも胸に抱いて生きていることを、これまで読んできた中で知っているからこそ、紆余曲折の後に登場人物全員が落ち着くべきところに落ち着いているのがとても嬉しく、純粋に明るい気持ちになりました。
その中でも特に嬉しかったのが、最終話時点でもまだ、ハナと満里子が一緒に暮らしていることです。
同じ男性を同時に好きになってしまったこと、そして朗読が原因で幾度も関係が危うくなったハナと満里子。
しかし、お互いの努力によってそれを乗り越え、「結婚しても、このままいっしょに住んでたりして?」なんて言いながら笑いあえる仲になっていることがとても嬉しかったです。
私は個人的に、誰かと恋愛して結婚するのが難しい人間なので、友達同士で一緒にゆったりと生活しているふたりの様子に「こんな未来もありなんだな」と感じ、自分でも意外なくらい癒されました。
そして、何度見ても涙があふれて止まらなくなるのが、最後の2ページ。
「不幸なそして幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて~」以下の一文はハナの境遇と重なりますし、幼き頃からのハナの物語をずっと見てきた読者の胸に、痛く優しく刺さります。
この一文の背景に、トボトボと下を見ながら進む幼き頃のハナの姿が描かれているのが本当に上手いです。
早くに両親を失うというとても悲しい目に遭い、親しい人も、慣れ親しんだ標準語を使っている人もいない土地に移ってきて、元々の引っ込み思案な気質もあって周囲に溶け込めなかったハナ。
そんな境遇ににあった第1話のハナを思い出し、胸が痛くなります。
そして、そこから続く最後のページ。
「行け。勇んで。小さき者よ。」という、「小さき者へ」最後の一文を朗読するハナの声とともに、顔を上げ、光差す田舎道をまっすぐ歩いていく、幼き頃のハナの背中が描かれています。
この背中が、第1話のハナとの対比になっているように感じられ、強く胸を打たれました。
この、何度最後のページを開いても必ず涙があふれるような感覚、たくさんの感情が胸に染み入るような読後感は、他の漫画や小説では味わったことがありません。
なんて優しく、なんて力強い物語なんでしょうか。
この作品を発見し、1巻からずっと読み続けてきたことがとても大きな運命のように感じます。
社会人としてうまくやっていけずに落ち込んでいたハナは、朗読を始め、自分で進んで路上朗読まで行い、コンクールに出場し、そして今や大好きな友人と一緒に生活しながら、自分の朗読教室を開き、たくさんの人の前で堂々と朗読を披露できるまでになりました。
いつも何かに怯え、びくびくしていた過去のハナの面影はそこには無く、堂々とした、立派なひとりの女性の姿だけがあります。
この変化は、単純に歳を重ねて余裕が出てきたからということもあるでしょうが、やはりハナ自身が自分の足で頑張って歩き、掴み取ってきたものが大きいと感じます。
「花もて語れ」は、朗読との出会いを通じて、自分の殻を破った幼い頃のハナの物語からスタートしました。
そして締めくくりもまた、幼い頃のハナの背中だということが本当に印象的で、忘れられません。