辺境警備、最終話 完結6巻 感想
※ネタバレ注意です※
とうとう、辺境に神官さんが帰って来ました。
辺境に隊長と神官さんがいると、ギャグが出ないはずがありません。
直前の、エンディミラ・オルムでの事件は深刻なお話でした。
以前あとがきに書いていた通り、ギャグが少なく、作者さんはギャグエネルギーが溜まっていたそうです。確かに、良くも悪くもいい加減な隊長さんですら、ギャグのキレが悪く、重い話でした。
それも悪くありませんでしたが、やはり、開放的な自然あふれた辺境での隊長と神官さんが一番です。
ある日、町の人が皆、薬を手にして神官さんを訪ねて来ます。なぜ皆が色んな薬を持ってくるか理由がわからず、神官さんは戸惑います。そこへ可愛がっているジュディスが、やはり薬を持ってきたので、神官さんは彼女に理由を尋ねるのでした。
ジュディスは目を潤ませながら答えます。
「昨日から皆が、神官さまがご病気だってうわさしていたんです」
やはりわからない神官さん「誰がそんなことを?」
「わからないけど、今朝、隊長さんが本当だよって」
それでピンときた神官さん「そうですか。隊長さんが(その場にいた隊長をちらりと見る。隊長、こそこそと逃げようとする)。それで?私はどんな病気なんですか?」
「長旅のせいで腰痛とそれから…あの…(ジュディス真っ赤)人に言えない恥ずかしいご病気で困っておられるって」
ごおおおお(神官さんから発せられる音)「隊・長・さん」ばちばちばちっ!!「あなたって人は、あなたって人はっ!人をダシにしてなんてことをっっ!」
…以下一部略…
「ああ、もしかして私は、一生こんな人の相手をする為に、辺境に戻ってきたのだろうか…(へらへらする隊長と、倒れそうになる神官さん)」
最終話で、私が最も好きなギャグの場面です。
それにしても、辺境ののどかさは常に変わりません。小さな事件はしょっちゅう起きますが、のんびりした空気は同じです。尤も、起きる事件のほとんどは、隊長さん絡みなんですが。
辺境の、美しい空気と色鮮やかな草木や花々。くっきりした四季の移ろい。春のきらめき、夏の風の心地よさ、秋の色鮮やかな木々と冷たくなる空気、冬の深い雪に人々は家に集う。
西カールの自然の豊かさと人々の結びつきが、絵からも生き生きと伝わり、本物のように感じられるのです。
直前の、エンディミラ・オルムでの陰惨な事件は、それ自体が重く暗い絵になっていました。けれども事件と関係なく、都を描く絵は、よどんだ空気、自然な活力を失った都人達がイメージされるものでした。辺境との対比が強く出ていると思います。
辺境には、都に行くため兵営を留守にした隊長の代理に、背高さんがやってきていました。神官さんと縁の深い人です。
最終話では背高さんの長く背負ってきた重荷を、隊長さんは理解します。背高さんは、初め、隊長を警戒していたのですが、自分と神官さんの秘密を隊長が知ったことに、最終的には安堵したように見えました。神官さんが隊長さんを信頼していること、人前で見せない隊長の懐の深さに納得したのでしょう。
いい加減でへらへらして見える隊長ですが、そしてその姿はまぎれもなく隊長ですが、いつか回りの皆が信用するようになります。とても魅力的なキャラクターです。
そして、辺境警備隊で重要な存在が、兵隊さん達です。
小さくて丸っこくて、時に「豆ども(少しひどい)」と呼ばれることもあります。それぞれ名前も性格も違うのに、ひとくくりにして描かれてしまいます。けれどもみかけと違い、堅実で気がきいて、戦闘には向かなくても、任せて安心です。
例えば、商売をしながら旅をするカイルの庵を、こまめに手入れします。また、突然行方をくらませた隊長を、神官さんはあわてて探そうとしますが、兵隊さん達は平然として、隊長の残した痕跡から数日ほどで帰ってくると見当をつけることができるのです。
もしかしたら兵隊さん達の存在が、辺境の平和に一役かっているのではないでしょうか。
陰惨な事件の後だからこそ、辺境の素晴らしさが際立って見えるといのが、最終話を読んでの感想です。