めぞん一刻、最終話 文庫 完結10巻 感想
※ネタバレ注意です※
愛する人と哀しい別れをしても、新しい恋愛をしても良いんだという事を、教えてくれました。
響子さんは、ずっと悩んでいたのだと思います。
五代くんを愛していながら、心の中にずっと抱えていた惣一郎さんへの想い。
惣一郎さんしか愛さないと決めていたのに、五代くんの事を愛してしまった事への罪悪感が、彼女にはあったのだと思います。
そして、五代くんに対しても、惣一郎さんへの想いを完全に消し去る事は出来ないのに、このまま愛していても良いのだろうかという罪悪感。
二人の男性への罪悪感に、響子さんは悩んでいたのだと思います。
だから、惣一郎さんの遺品を返せば、心に区切りがつけられると思ったに違い違いありません。
そして、その答えは五代くんが出してくれました。
五代くんは、一人で惣一郎さんのお墓を訪れていました。
五代くんは、知っていたんです。
響子さんは、例え惣一郎さんの遺品を返した所で、惣一郎さんの事を忘れる事はないと。
きっと、五代くんも葛藤していたんだと思います。
響子さんの心の中にいる人は、もうこの世にはいない人です。
どれだけ追い出そうとしても、思い出だけはどうしようもないのだと、五代くんは知ったんです。
そして、彼なりの答えを出しました。
それは、惣一郎さんの思い出も引っくるめて、響子さんと結婚しようと。
確かに、初めて会った時から、響子さんの心の中には惣一郎さんがいました。
音無という姓もそのままに、響子さんはひたむきに亡きご主人を愛していました。
そして、そんな響子さんだからこそ、五代くんは響子さんを愛したのだと思います。
惣一郎さんの墓前の前で、まるで目の前に惣一郎さんがいるかのように語りかける五代くんの顔は、今までで一番素敵でした。
「あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」
五代くんの言葉を、惣一郎さんの墓石の影に隠れて聞いていた響子さんは、五代くんを好きになった事は、間違いではなかったという事を知ったと思います。
惣一郎さんの前で、五代くんの手を握り、「あなたに会えて、本当に良かった」と言った瞬間、それは惣一郎さんに対する宣言にも聞こえました。
そして、二人に降り注ぐ花びらは、まるで惣一郎さんが降らせているようにも思えました。
これからは五代くんがいるから、大丈夫だと、惣一郎さんも思ってくれたのではないかと思います。
今まで止まったままだった響子さんの心の時計が、再び動き出したのです。
五代くんは、平凡な男性です。
すごいお金持ちでもなければ、特別な力がある訳ではありません。
すっごくハンサムという訳でもありません。
どこにでもいる普通の男性です。
でも、その優しさは、純粋さは、何ものにも替えがたい宝物なのです。
響子さんは、自分が愛した人が五代くんで、本当に良かったと思ったに違いありません。
結婚をして、五代くんとの間に生まれた春香ちゃんを抱いた響子さんは、本当に幸せそうでした。
響子さんが、まだ赤ちゃんの春香ちゃんに、一刻館を見上げながら、ここで五代くんと出会ったのだと語るシーンは、幸せの集大成にも思えました。
愛する人を失った哀しみは、消える事はないのだと思います。
多分、ずっと心の中には惣一郎さんが住み続ける事だと思います。
ですが、愛する人との思い出を忘れる事はないのだと、響子さんを通して教えてもらいました。
愛する人を失い、別の誰かを愛したとしても、それはかつて愛した人への裏切りではなく、新しく愛する人への裏切りでもないのです。
愛する人の思い出を抱えたまま、新しく誰かを愛するという幸せを、響子さんは教えてくれました。
これから、響子さんは五代くんと春香ちゃんと一緒に、幸せに暮らしていくのだと思います。