岳、最終話 完結18巻 感想
※ネタバレ注意です※
北アルプスでテント暮らしをしながらボランティアで山岳救助に携わる島崎三歩は、仲間である県警の救助隊員が目の前で落石事故により重症を負ったことをきっかけに、北アルプスを離れ遠いヒマラヤのローツェという世界で4番目に高い山に挑戦することになります。
それと同時期に、ローツェの隣にある、かの有名な世界一高い山エヴェレストでは、三歩の旧友がガイドとして率いる一行が山頂を目指すのですが、様々なトラブルの末、嵐に遭い下山できない状態に見舞われ遭難してしまいます。
それを察した三歩はエヴェレストに救助に向かい、旧友を含む数人を救うのですが・・・。最後に別のチームの1人の救助に戻るものの、その最後の1人は既に息絶えており、朦朧とする三歩がチームと無線で交信した後、「さ、帰るか・・・」と虚ろな目で呟いたところで終わり、最終話で舞台が北アルプスに移ります。
最終話はそれから5年後、三歩と親交の深かった救助隊員や山荘の女将さん、友人などのその後が「三歩が北アルプスを離れて5年経った」として描かれています。つまり三歩がエヴェレストで果たして命を落としたのか、それとも生きてどこかにいるのか敢えてわからないようにしてあり、「読者の皆様のご想像にお任せします」状態になっているのです。
この最終話については議論が尽きず、生存説、死亡説にわかれ様々な憶測を呼んだようですが、私はその生死がわからない終わり方が好きで、敢えて三歩の最後は知りたくないなと感じました。
この漫画のエヴェレストの物語は恐らく1996年に実際に起こったエヴェレスト大量遭難事件をベースにしているのではないかと思います。この事件は映画化されており、そのラストでは、8000mを超える高所で遭難し、命を落とした山岳ガイドの主人公の遺体は今もなおそこに残されたままである、と補足されていました。
ということは、例え三歩が息絶えたとしても、遺体は雪に埋もれて見つからないか、そこに残置されている可能性が高いでしょう。山を愛するクライマーが死して山の一部になる。不謹慎かもしれませんが、とても神秘的な気がします。
もちろん三歩は生きて戻り、海外の山々に挑戦しているかもしれないし、どこかの山で救助を続けているかもしれません。いずれにせよ読者が自分の好む結末を頭の中で自由に思い描けばよいのです。
さて、エヴェレスト登山チームには1人日本人がいました。彼は小田君といい、実は三歩が第1巻で救助した経緯がありました。当時は冒険部に所属する大学生だった小田君が社会人となり、意を決して会社を辞めてまでエヴェレスト登山に参加し、三歩と再会します。
三歩がエヴェレストで決死の救助に奔走する中、小田君も必死に三歩をサポートし、そこで自分もかつてしてもらったことのある山岳救助とはいかなるものかを目の当たりにします。
そしてそれから5年後、エヴェレストから戻った小田君は山岳救助隊員となり、北アルプスで新米救助隊員としての道を駆け上がっていました。私はこの小田君こそが三歩の最後の救助を見届け、三歩の志を継いでくれたものと考えて納得しています。
全18巻からなるこの漫画は、15巻までは日本の北アルプスの山々を登る様々な人の人生の一部や、三歩との出会いを通じての心の変化を描き、16巻から舞台がヒマラヤに移るのですが、眉毛もヒゲも白く凍り、酸素ボンベなしでは歩けないほどのとんでもない高所に向かう過程がかなり丁寧に描かれているので、まるで自分もそこにいて、チームの一員として挑んでいるかのような気分でどっぷり浸ってしまいます。
そして最終話で舞台が北アルプスに戻ると、生きて帰れた気分でホッとし、とにかく北アルプスの山に登りたい、山の空気を吸って山頂からの景色が見たいと強く思わされるのです。まずは上高地に行って山々を拝みたいな。