ウッシーとの日々、最終話 完結7巻 感想
※ネタバレ注意です※
北海道の冬、遠出していた主人公が家に帰って来ると、長年一緒に暮らしていた飼い猫が死んでいた。恐らく凍死だった。
この猫は主人公が東京から連れてきた猫であり、本作テーマの移住を始める前から一緒だった。
まずその猫の死に方がこたえました。
厳寒の地、北海道に連れて来なければきっとこうはならなかったであろう。また長い間家を空けずに家にいればこうはならなかっただろう。そういった後悔の思いが伝わってきます。
しかし主人公は何にもしばられたくないとこの地にやって来たのであるし、猫のためにずっと家に引きこもるのは性分ではない。そもそも会社へ毎日行くのが億劫で漫画家になり、北海道へ引っ越してきた。漫画家の仕事も家を空けてもできるよう、自分の車を改造してテーブルを置けるようにした中で行なっています。
また、この土地はとても気に入っていて何年も猫も自分もこの冬を越えてきた。猫は高齢になっていたのです。
しかし、きっと猫は怒ったり恨んだりしてはいないだろうと主人公はわかっていたのだと思います。ここに暮らしていると自然は常にともに生きている。猫もまた自然の中に生きる動物であり、恨みを持ったりすることはない。あくまでも冬を乗り越えられなかったのは自分の責任である。
主人公は十二分にそれを感じているからこそ自分の身勝手さを受け入れ、猫を大事に思ってきたことを実感します。主人公は猫に許されていることをわかっているし、一抹の悲しみが胸をかすめたと思いますが、そういう次元ではなく死んだ後までも互いに干渉しないことが主人公と猫との絆なのでしょう。
ペットロスという言葉があります。主人公もまた心底動物を愛しており、人間よりも動物の方が好き。しかし、彼は依存し合う関係を好んでいません。猫にキャットフードはやるものの、ネズミや鳥をとってくるのを黙って見て、安心しています。また猫トイレは廃止して冬でも外で自分でしてくるようにしつけました(しつけた、という言い方も主人公は気に入らないでしょうが)。
猫も自分も対等な関係であるよう努めていつしかそれが自然体になってきた。
そんな仲間を失った悲しみはあるものの、おそらく死が自然の一部であることをとても良くわかっている。猫の死を前にした時、主人公は冷淡に見えるかもしれません。しかしそうではなく、非常に深い愛情を持っていることがわかります。セリフもほとんどなく動きもほとんどないコマですが、こうした長年の歴史や主人公の思い、意志が感じられる名場面です。
その後主人公は猫を火葬してもらい、お骨を持って、飼い犬とともに再び車を走らせ南へ向かう。とにかく「南へ!」と言っているセリフがその想いの強さを感じさせます。普通なら地名などでどこどこへ行く、と表現するでしょうが、主人公の目的はどこか決まった地名の場所へ行くのではなかった。そうではなく、暖かい場所を求めている。そしてとうとう九州に到着します。
主人公は九州の海へ来て砂浜の砂を掘る。そして、持ってきた猫のお骨をさらさらと穴に入れる。とても細い骨でした。
それから初めて「じゃあな」と別れの言葉を発する。
凍死した猫のために暖かい場所へ連れてきたかったのです。東京から連れてきて北海道へ、そして九州へ。墓がゆかりの地ではないと、とこだわりもしない。ただ相手が望むであろう場所へ連れてきた。そしてそれが自分のそばでなく、暖かい場所という理由ではるか離れた九州まで来てしまったところが、主人公の、他人と自分の関係の見方を表しています。彼は自分を誰かに縛られたくもないし、自分が誰かを縛ることもまた大嫌いでした。「距離」ではない、主人公なりの相手への思いやり、愛が非常に良く表れている。爽やかで壮大で高レベルの愛をそこに見る気がします。