結末

幽麗塔 最終回 9巻 ネタバレ注意

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幽麗塔、最終話 完結9巻 感想

※ネタバレ注意です※

幽霊塔に関わる様々な恐ろしい事件が収束し、最終話では登場人物たちのその後が描かれています。幽霊塔で起きた一連の事件はひどく陰惨で恐ろしいもので、多くの犠牲者が出ましたが、最後は少し希望を感じることのできる内容になっています。

主人公・天野は、物語が始まった段階では定職にも着かず、蔵書を売って細々と暮らしていましたが、幽霊塔の事件、そして女性として生まれながら男性の心を持ち苦悩するテツオとの出会いを通じて芽生えた「性的なマイノリティが差別されない世界を作る」という野望を叶えるため、最終話では神戸で出版社を設立しています。

社長として多忙な日々を送り、さあ次は東京へ進出しようという天野は物語が始まった頃とは全く別人で、ここまで天野の冒険を見てきた読者としては、その成長ぶりに感涙を流してしまいそうになりますが、天野が借りていた下宿屋のおばちゃん(天野のせいで下宿が焼失)が最終話でちゃっかり登場し、天野の屋敷の家政婦として雇い入れられているのにもほっこりしました。下宿を失って途方に暮れていたおばちゃんが心配だったので、このような形で救われてよかったです(笑)

そのほかにも、幽霊塔の事件で犠牲になったと思われた山科刑事が生きているような描写があったり、横暴な父から離れて持ち前の商才を生かして洋裁店を営む沙都子、正義を貫いた警官のヤゴベヱや原田…強い意志を持って事件に関わった人々はちゃんと報われているようで安心します。あまりに多くの人が死んでいった作品のため、最終話で生き残っている人々には絶対幸せになってほしいと思います。

第二の主人公とも言えるテツオは、作中ずっとカッコイイのですが、最終話ではそのカッコよさが最高潮に達します!「失敬。」と言いながら天野を抱き寄せるテツオときたら、とても女性とは思えない…なんていう言い方も、この物語のテーマとしては適切ではないのだと思いますが。女性としての美貌を持ちつつ、心は男性、というところが、女性読者にグッとくるのかもしれません。

ラストのキスシーンは、「体は女、心は男」なテツオと、「体も心も男だが、女装している」天野という、一見すると混乱してしまう状態なのですが、ここまで読んできた読者からすると、男だとか女だとかはもう関係ないのです!このシーンは、愛や友情や人に対する尊厳といった様々な感情がない交ぜになった結果だと思います。この物語の終着点として、とてもきれいな終わり方だったと思います!結果として、テツオは男にも女にもなれず、これからも心と体のギャップに苦しむことがあるでしょう。でも、誰にも理解されなかった過去とは違う、これからは天野という理解者がおり、自分が何者だろうと、どこにいようと、何をしていようと、揺るぎない友情が確かに存在しているという確信。テツオはそれを手に入れ、男でも女でもない自分を受け入れ、前向きに生きていく希望を持つことができたのだと思います。

幽霊塔は登場人物たちの人生を少しずつ変化させ、破滅に導かれた者もいれば、人生の指標を得た者もいます。

最終話では日本一高い塔・東京タワーが完成します。新しい時代の象徴としたら描かれる東京タワーですが、作中では「いつかこの塔も朽ち果てて新しい塔に替わられる日もくるだろう」と書かれています。これは2012年に完成した東京スカイツリーのことを指していると思われ、東京タワーが完成した当時と、東京スカイツリーが完成した現代において、「性的マイノリティーの扱いは変わったか?」「彼らが差別されない未来は訪れているか?」という作者から読者、そして社会全体への問題提起がなされています。漫画という媒体ですがこの最終話を通じて、この頃よく取り沙汰されるようになった性的マイノリティーのことについて考えさせられました。


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