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こいいじ、最終話 完結10巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話の中ではこれまでの登場人物とその風景が少しずつ描かれていました。登場人物たちは物語の中で常に描かれてはいなくても、確かに継続して生き続けていて、またこの最終話の後も変わらず嬉しいことや悲しいことを体験しながら生きて、歳をとっていくのだろうなと感じました。
この漫画の中で一番不可解で謎だったまめの姉のゆめが普通に子供を産んで普通にお母さんになっていたのが意外でした。きっと突拍子もない人生を送り続けるんだろうなと思わせるゆめが普通のお母さんに落ち着くことに、作者にしてやられた感があります。でもきっと周りを振り回し続けるのだろうし、子育ても誰も思いつかないやり方でこなしそうです。
ゆめの子供がゆめの望んだ、はるこの生まれ変わりなのかどうかは誰にもわかりませんが、みんなの様子を見るはるこが描かれているので違うのかもしれません。
次のシーンでは、漫画の開始当初小学生だったゆうが高校生になった姿が描かれています。年相応の見た目に描かれていてこちらまでゆうの成長を見守ってきた知り合いの気分になります。
ゆうの恋愛の話はこれまでなくて、いろいろと思春期らしい大人びた言動が描かれつつも、まだまだ子供っぽかったゆうが言葉少なくほおを染めて静かにしている姿は急速に彼女が少女から女性になっていくことを予感させます。
聡ちゃんに似たゆうのつり目も愛おしいです。
次は聡ちゃんの弟が婿に入った家の家業を継ぐシーン。
どれも新しい始まりが描かれている前向きなものです。
とんで、まめの元彼の姉の娘家族のシーン。
彼女らだけが、駆け落ち同然に出て行った母親とのわだかまりが埋められず、前向きな雰囲気ではありませんでした。
他のシーンの人たちは今後、明るいそれぞれの人生が想像されるのですが、このシーンだけが異質で今後どうなっていくのか予想できません。
そして最後に喫茶店のオープン前日の聡ちゃんとまめのシーン。喫茶店を出たまめたちは思い出の公園に向かいます。
最終話のタイトルは「プリティ・ウーマン」でした。
これは主人公のまめのことを表しているんだと思います。
まめは最後話も変わらず可愛い子でした。
思い続けた聡ちゃんと公園まで手を繋いで歩き、公園に着くと無邪気にタッと井戸に駆け寄って力強く水を出します。もう少女という年齢からはかなり経っているはずなのに、軽やかに自然にふわふわ動きます。
私は何よりまめの姿形が丸っこくて柔らかくて好きです。
くりっとした大きな目もぷくっとした唇も、その唇を尖らせた表情も。髪の毛からつま先までどこも柔らかいんだろうなと目で感じる画風そのものが大好きです。
描き込みが細部までしてあるわけではなく、紙の色のままの何も無い空気を大切にしているような画風が好きです。
まめの生き方は決して賢いとも堅実だとも言えずしばしば心配させられましたが、この画風が深刻にならずほっこりした気持ちにさせてくれました。
公園で聡ちゃんはブランコに乗りながらはるこのことを想います。
昨夜、夢に出た聡ちゃんを不思議そうに見るはるこに、聡ちゃんははるこがこの世界の誰かに生まれ変わったのかもしれないと思います。そうだったらうれしいと。
死んだはるこがどうなったのかは誰にもわかりません。しかしはるこから離れられなかった聡ちゃんがそう思えるようになれたのは、聡ちゃんの新しい大きな一歩に違いないと思います。
この物語の主人公はまめで、10巻を通してまめの聡ちゃんへの意地とも言える片思いの話なのですが、この、最終話で深く心情が描かれるのはまめでは無く、聡ちゃんです。
実はこの漫画は聡ちゃんがはるこから自立して新しい一歩を踏み出すまでの話でもあったのだとわかりました。
まめは聡ちゃんにどんな影響を与えたわけでもなく、聡ちゃんの心を変えるなんてことはできなかったと思います。
ただ、聡ちゃんの心が一歩踏み出すまでそっとそばにいただけでした。
好きな人に押し付けがましくなくそっと寄り添い続けたまめは今後何があっても意地でも聡ちゃんに寄り添い続けるでしょう。
この話はまめの粘り勝ちでは無く、たまたま聡ちゃんがまめの方を向いただけでまめは聡ちゃんが一生振り向かなくても寄り添い続けたと思います。そう思うとまめの純情に、恐れに近い感動を覚えました。
