無限の住人、最終話 完結30巻 感想
※ネタバレ注意です※
長い長い時間をかけて紡がれてきた物語、「無限の住人」。
全30巻にて、とうとう完結しました。
リアルタイムで雑誌で読んだ時は、感無量でした。
まさか、凜ちゃんがほとんど登場しない最終回なんて……それでいて、これ以上なく「万次さんと凜ちゃんの話」でした。
プロローグを除けば、二人の出会いから始まった、この漫画。
父母を亡くした凜ちゃんと、妹を亡くした万次さん。
二人は復讐者と用心棒でありながら、どこかお互いを失った家族と重ねていました。
ただし、途中まで。
様々な試練と出会い、別れを乗り越えたラスト……二人にとってお互いは、かけがえのない存在になりました。
特に凜ちゃんにとって万次さんは、想いを寄せる男性でもありました。
でも彼は、その想いを受け取りませんでしたが。
だって、普通の人間である凜ちゃんと不老不死の万次さんは、同じ時を生きることが出来ないのです。
だから、離れるしかなかった……。
江戸を離れる万次さんの背中を見て、凜ちゃんは子供のように泣きじゃくりました。
そしてそれが、二人が最後に会った瞬間。
次のページで、いきなり物語は90年後に飛びました。
街は様変わりし、汽車や人力車、洋装の人もチラホラ見かけます。
そんな中登場したのが、変わらぬ姿の万次さん。
カンカン帽子とマントは、ちょっとハイカラですが。
彼は平和な世に必要ない武器を、土に埋めていました。
廃刀令が発令し、武士も刀も必要ない時代……「真の武」を追い続けた旧敵・逸刀流を思いだし、ほろ苦い表情の万次さん。
そんな彼に八尾比久尼が引き合わせた、小さな女の子……。
な、なんと彼女は、あの凜ちゃんの子孫だったのです!
名前は「布由」ちゃん。
彼女が持っていたのは、凜ちゃんの小刀でした。
それと、「この人に渡して」という、万次さんの似顔絵。
孫の孫まで、凜ちゃんの願いは受け継がれていたのです。
この場面、一抹の切なさと共に、ジーンとしました。
時間を越えて、確かに凜ちゃんのメッセージが届いたことに。
そしてそれを、子や孫やひ孫が、きちんと受け取っていたことに。
自分が死んだ後も、万次さんは生き続ける。
だからいつか、また再会出来る。
そんな希望と願いを、小刀に託したりんちゃんの想いに……。
小刀には「卍」マークと、炎が彫られていました。
つまり、万次さんとりんちゃんの象徴です(りんちゃんの着物は、炎柄でした)。
父親と叔父の争いに巻き込まれて、誘拐されそうな布由ちゃんを、比久尼は万次さんに託します。
「剣なしで、その子を守ってみせろ」と。
そして彼は、布由ちゃんの手を引いて歩き始めました。
ここで私、二度目の涙腺が刺激されました。
万次さんは失った右手に、亡き天津の手をつけていました。
凜ちゃんが長年憎み、追い続け、自分の手でとどめを刺した、因縁の仇です。
最後は万次さんとも凜ちゃんとも、互いに通じ合うものがありましたが……。
彼もまた、志半ばで命を落とした者。
そして凜ちゃんと同じく、親の恨みを背負う者でした。
その天津の手が、今は万次さんの手になり、凜ちゃんの子孫と手を繋いでいる……。
世代を越えて凜ちゃんと天津は、憎しみや因縁から、解放されたのだと。
もうもう、なんて深遠なメッセージなのでしょう!
「敵を許すか、復讐を貫くか」というテーマは、本作品で何度も問いかけられました。
凜ちゃんや万次さんも、殺した相手の身内にとっては、憎い仇なのです。
ちなみに単行本のカバー下には、美しく成長した布由ちゃんと、万次さんの姿が。
まだ旅をしているのね……。
小刀を見つめる万次さん、凜ちゃんのことを考えているのかもしれませんね。
タイトルの「無限の住人」とは、永遠の時を生きる、万次さんのことなのかもしれませんね。