ハーピー、最終話 感想
※ネタバレ注意です※
最初ぺージ、水墨画のような淡彩画に惹かれます。
見事に満開な椿の木に逆さにぶら下がる「女」は何者なのでしょうか。
明らかに人間ではないのでしょうが、厳かな空気さえ感じられます。
長方形で直線のラインで割られたコマに甘さは感じられません。
めくるたびに、とピリッとした電流のようなものがはしり、まるで気安く入っってくるなといわれているかのような錯覚に陥ります。唐突に「臭い」という単語が目に入ります。読んでいるものにとって、初めて生々しいものが側に近づいてきたようです。
明らかに他の女生徒とは明らかに違うたたずまいの「川堀苑子」という女子学生が視界に入ってきます。
わずかに緊張を感じさせられます。長く漆黒の髪を所々細い「みつあみ」にして何本も垂らしたヘアスタイル、クッキリとした大きな目、蛾の触覚のような細い眉、紅く口角の上がった唇、高い鼻、どれもが神秘的なのですが、ここにいてはいけない「禁忌」ともいえるような美しさです。
視線はいつも前を向いているようですが、薄目で男子生徒「佐和」を追っています。そして、なぜか彼だけが「川堀苑子」の臭いをかぎわけるのです。
そして、ある日の授業で仏教内容の講義のなかで、「女面鳥獣」というものを彼は知ります。それが「ハーピー」という怪物ということを認識します。死臭を放つ妖獣ということです。
それに合点がいった「佐和」はふと「川堀苑子」が仁王立ちで目を大きく見開きこちらをみている姿を目の当たりにしてしまいます。彼だけに見えている「川堀苑子」の姿なのです。彼女は明らかに「佐和」という男子生徒にターゲットをしぼっています。
彼女は獲物をさがしているのでしょう。よだれを垂らさんばかりにして食う物を捕獲しようとしています。
そんな彼女の貪欲な欲望を知ってか知らずか、「佐和」は、どんどん「川堀苑子」の術中にはまっていきます。
下校時、吸い寄せられるように、彼女を追いかけます。
そして、一瞬彼女の背中に大きな羽根が二枚出現したのを見届けます。体の二倍はあるほどの羽根です。ここで、彼女が人間ではないことに改めて「佐和」は気付くのです。コウモリであるということを確認したのです。
季節は冬なのでしょう。時折、枯れ木の画像が、入ってきます。ストーリーが冷徹さを帯びていきます。
こうもりは「かわほり」ともいい、「苑子」という字が「死」に似ていると考えた「佐和」の感覚は不気味です。
「川堀苑子」に嫌悪感を抱いた「佐和」は、常に心のなかで、「川堀」に対して疑問を浮かべます。
リレーに出場した彼女が優勝したときも「人間ではないのだから、足が早いのも当然だ。ハーピーなんだ」とやるせない気持ちを抱きます。
しかし、「ハーピー」という名前を心でつぶやいた途端の「佐和」にたいする彼女の憎悪に燃えた表情はすさまじいです。
確かに彼女は妖獣です。正体を知られたからには、「佐和」をつぶさねばならないと決心した顔です。
そして、体育会が終了したあとも、「佐和」はなおも彼女のあとをつけ、自分の確信を決定づけようと女性更衣室に無断入室します。「佐和」自身もハーピーに魅入られているとしか考えられない行動です。
シャワー室で、彼はついに発見しました。ハーピーが大きな羽根を広げて、こちらに顔を向けて威嚇しようとしています。とがった耳、つりあがった眉、裂けあがった口、獰猛そうな歯、そこには確かにあの妖獣が立っていました。
こちらをみて正体を見破られたことに烈火のごとく怒髪天のように怒りの表情を向けています。そして「見たな」と確実に一言さけんでいました。
その、姿は禍々しくもあり、妖しくもありますが、妙なノスタルジーさも感じさせ、母性のような優しさをも感じさせる不思議なビジュアルです。変な生温かさがあります。
しかし、すぐに先生方がかけつけ、そのときには元の人間の外見にもどっており、単なる「佐和」の女性暴行事件に終わってしまいます。
「佐和」は見たことを肯定し続けていきます。周囲は完全に「佐和」を気狂いと認定しています。
ハーピーに完全に人格破壊された「佐和」の姿が最後に描かれています。
なぜか滑稽でもあり、哀しくもあります。ハーピーの餌食になってしまった男の性ということでしょう。