一条 ゆかり先生、デザイナー、最終話 感想
※ネタバレ注意です※
一条ゆかり先生の作品で1番有名なのは『有閑倶楽部』だと思います。1番長く描き続けていた作品ですし、私も読んでいます。
この『デザイナー』は、『有閑倶楽部』とは全然違う作風で、重いテーマの作品です。
まず主人公その他のキャラ設定がすごいです。ひとつひとつ上げて書くことはできませんが、私は読み始めてから何度も「ええ~?!」とつぶやいていました(笑)。当時の読者はどうだったのでしょうか・・。大人になってから読んだから、よけいそう感じるのかもしれません。
でもこの作品は、読みごたえ充分です。展開が早く、次から次へとページをめくることを止められませんでした。いろいろ突っ込みながらも、それで読むのをやめる気にはならない、読ませる力があります。
売れっ子モデルの亜美が怪我で舞台に立てなくなり、デザイナーとしてトップに立つことを目指す・・というのがおおまかなストーリーです。それもただトップに立つだけではなく、そのときトップにいた女性デザイナーへの復讐という目的のためです。
なんで亜美がこのようなことを考えるのかというと、それがこの作品の重要なポイントなのですがここには書きません。
怪我した亜美に援助を申し出た朱鷺(とき)のおかげで、亜美は目標を達成しますが、その後ですぐにデザイナーを廃業します。その朱鷺と結婚するためにです。それまで孤独な境遇で生きてきた亜美にとっては、愛する人との家庭を作ることが1番大事なことだったのだと思います。
そう思いつつ、せっかく築いた地位を捨てるなんて思い切りが良すぎると、私は思ってしまいました。結婚してからでもデザインの仕事はできるし、現実にもそういう方はいますし・・。
でも当時は女性が仕事を辞めて家庭に入ることが当たり前だったので、今だったら亜美はどういう選択をしたのかなと思います。もし仕事を続けるという選択をしていたら、あのような結末はなかったかも・・。
この物語は、孤独な女性が最後に幸せになるというストーリーではありません。最後に大きな悲劇が待ち構えているのです。
実は朱鷺が亜美に近づいた目的は、亜美と同じように当時の女性トップデザイナーへの復讐でした。そして彼と亜美は双子だったのです。亜美はそのことは知りませんでしたが、朱鷺のほうは知っていました。それでも亜美を愛してしまったのです。生まれてから一緒に暮らしたことがないので、血のつながりがあっても他人と同じですから、こういうことがあってもしょうがないのかなと思います。でもこの恋愛がなければ、ああいう結末もなかったのです。
事実を知った亜美はショックで思いつめて、自殺をしてしまいます。そして朱鷺はそのショックで精神年齢が後退してしまい、子供のころに意識が戻ってしまいます。
まるで韓流ドラマのようですが(韓流ドラマについての私のイメージが偏ってるかもしれませんが)、この作品が雑誌に連載されていたのは1974年なので、今世紀の韓流ブームよりはるかに前に出された作品です。
一条先生の作品は、ラブコメや『有閑倶楽部』のような楽しい話が好きなので、こういうドロドロな作品はあまり読んでなかったです。そんな私でも、読み始めたら止まらなかったです。
ファッションの話なので、登場人物たちはみんなおしゃれで、仕立てがいい服を着ているというのが、絵を見ていてもわかります。ファストファッションばかり着ていてはいけないなと、自分の普段着とくらべて恥ずかしくなりました。
ファッションを作る側の人達のことを、普段はあまり考えません。この作品はフィクションですが、現実のファッションデザイナーの仕事にも興味がわいてきました。
つらい内容の作品ですが、読み終えるといろいろ考えることが増えて、こんなふうに好奇心も芽生える、不思議なパワーを持つ作品です。