ストロボ・エッジ、最終話 完結10巻 感想
※ネタバレ注意です※
漫画の一コマ一コマから目が離せず、二度見三度見してからようやく次のページへ。これほど名残惜しいと思った漫画はこれまで出会った事がありません。ストロボ・エッジにおいて、何よりも素晴らしいのは一つ一つのキャラクターの動きや仕草です。
口元に手を当て、少し考えてみる。手足を必死に動かして、汗が飛ぶほど全速力で駆け抜ける。頬を赤らめて視線をそらし、そしてまた視線を戻す。抱きしめる手に力が入り、制服に皺が寄る。その全てがとても愛おしく感じます。
主人公である仁菜子が、ずっと好きだった蓮君に告白するシーン。何ページも何ページも使って言葉を押し出し、仁菜子の一生懸命さ、素直さがひしひしと伝わってきます。純粋で明るくて、素直過ぎる性格のために周りに流されてばかりだった彼女が、涙を拭いながら想いを伝える姿は胸が熱くなりました。不器用で全然綺麗な言葉は出て来なくて、想いは伝えたいのに口は思うように動いてくれなくて。もどかしくて読んでいる方ももやもやして。だけど蓮君はずっと待っててくれています。急かす事なく、彼の方から想いを切り出す事なく、仁菜子が言葉で伝えるのを待ってくれているのです。
この告白シーンはとても長いです。長く長く、密度が高くてとても濃いのです。最終話まで読んできたからこそ分かる、好きという感情がどれだけ大きくて、どれだけ深いものなのか。その全てがここに凝縮されています。ここで作者のすごい所は、絶妙な間の空け方です。口に出す言葉、心に留めている言葉、そして無音の間。その全てが見事に読み手の意識に沿われており、遅すぎる事も早過ぎる事もありません。読んでいる方も一緒に、ドキドキワクワクする事が出来るのです。
仁菜子と蓮君が両想いになりハッピーエンド。と、それで終了といかないのが、またストロボ・エッジの良いところです。仁菜子の事をずっと好きだった安堂もまた、最終回で仁菜子に想いを伝えました。蓮君に引け目を感じ、ナンパで軽い男を装いながらも、今までずっと仁菜子に一途だった安堂。蓮君とは中学の頃からの付き合いで、仲の良い友達でした。しかし、今は単なる友達ではなく少し距離の置いた関係。中学の頃に起きたある事件によって、二人の関係はぎくしゃくしていました。
お互いの事は嫌いじゃないのに、距離は保たれたままで、近づくにも近づけない。
その微妙な関係性は、今後も続くような予感がしています。けれどそれは今までのような悲観的なものではなくて、清々しさのある成長が垣間見えた瞬間でした。決して言葉数が多い訳ではありません。どちらかが何か決定的な言葉を行った訳でもありません。けれど二人とも笑っていました。
嬉しそうに、誇らしげに。その表情がまたぐっと心を鷲掴みにします。
ハッピーエンドで良かった、と思いつつ失恋した安堂はどうなったのだろうと不安になるところ。ですが、最後の彼の笑顔はとても満足のいくもので、明るい未来が見えているようでした。
ストロボ・エッジでは、とにかくキャラクターの感情が繊細で優しくて、ほんの少しの心の動きさえも、漫画の一コマから伝わってきます。それが動きや仕草であったり、言葉のひとつひとつに見えて来るリアリティなのだと思います。
素直で不器用な仁菜子。口数が少ないけれど優しい蓮君。ナンパだけれど本当は一途な安堂。彼ら一人一人が自分で考えて動き、漫画の中で生き生きと笑い、そして涙する姿は、とても心に深く刺さるものでした。彼らが感じて言葉に紡いだものに触れ、読者も登場人物としてそこに降り立ったような気分です。最後の一ページで仁菜子と蓮君が互いに笑いあっている姿は、今でも鮮明に思い出す事が出来ます。