逢魔ヶ刻動物園、最終話 完結5巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話は今までの動物という概念をすべて覆され、目の前で何かが起ころうとしていることしか把握できない悠が、華に対して問い詰めるシーンから始まります。
ただ、性格を変えたいという一心でサーカスに入団した悠が、まっすぐに尋ねてくるこのシーンには、息を呑みました。
そして、それに真摯に答える華の顔はとてもかっこよく、成長していることを感じ取れました。
そこで話し合うことで、悠と華が、サーカス団と動物園という異なる環境下にいながら、それぞれ同じ理由で行動していたことを知ります。
そこで放たれた一言でもある「好きな事でなら、変われると思ったから」には、思わず頷いてしまうほどの力強さを感じました。
同じ動物好きだからこその共感や、他人とは思えない理由に、唖然とする華の顔が可愛らしいです。
また、敵でもあったトイトイが、鈴木に好まれたいという一心のみで、サーカスの本当の団長のことについて言及するシーンには、鳥肌が立ちました。
このことを話したら、八つ裂きにされてしまうかもしれない、と前振りしている点からも、鈴木に対する愛情の深さを感じ取れます。
まさに愛を具現化したような存在であるトイトイが、真相に近づく、重い一言を発するこのシーンは、特に頭に残っています。
そして団長のテントの中で、クマと遭遇するシーンは華の動物へと知識と愛情を感じ取ることが出来ます。
至近距離でのクマにも怖気づかず、クマの指の本数という知識から、そのクマが人間の骨格をしていることに気づきます。
本来とは違う動物の姿をしている点から、このサーカスにいる呪われた人間の正体を看破したこのシーンは、何度見ても爽快感を味わえます。
看破されたと同時に、黒い靄となって蠢くクマには、恐怖を感じました。
そしてここで、腹部や腕以外はヒグマの呪いに支配されている志久万が正体を現します。
大柄で、全体的にワイルドな印象を与えるこのキャラは、敵側ということもあって、恐怖心を煽る姿をしています。
しかしながら、スマートなノズルや、巨躯を覆う毛皮から、とてもかっこいいという印象を与えてくれます。
呪いによってヒグマへと変えられた志久万と、ウサギへと変えられた椎名が顔を合わせることになります。
捕食される側であるウサギと、捕食する側であるヒグマという構図が、この状況の危うさをより強めていて、とても胸が高鳴ります。
いつもは飄々としている椎名が、思わず身を震わせるところからも、相手の強さを知ることが出来ます。
そして、秘密とは言いながら、こちらに大声で八つ裂きにしてくるんだと伝えてくるトイトイの無邪気さには思わず頬が緩みます。
こういった緩急が随所にあるため、読んでいて飽きることはまずありません。
椎名が震えるほどの力を有した志久万だけでも絶望的ですが、そこでロデオがテントの奥から歩いてきます。
草食至上主義で、肉食動物をこの上なく嫌悪しているロデオは、こちらを調教しようとしてきます。
草食動物への温和な態度と、肉食動物への容赦のなさというギャップには、読んでいるこちらも驚きます。
サラブレッド特有の引き締まった身体と、理性的な態度が、相手の強さを物語っており、志久万とロデオという二強が揃ったこのシーンは、ここからどう突破していくのか目が離せなくなります。
そして物語の終盤、ウワバミや岐佐蔵、そしてシシドといった動物たちが、人型に変身できなくなることを知りながらも、園長に力を注ぎ込むシーンには、涙が止まりませんでした。
力を注ぎ込む動物たちの信頼した表情と、少し唖然とした椎名の表情の対比が、特に胸を打ちました。
強制的に力を奪った志久万と、人望によって力を集めた椎名が、向かい合って対峙するシーンには、胸が熱くなりました。
志久万に無理やり力を奪われる時に、人型になれなくなるのは嫌だと叫ぶトイトイの姿も、志久万の残酷さを表していて、悪と善がはっきりしていて面白かったです。