パレスメイジ、最終話 完結7巻 感想
※ネタバレ注意です※
女帝とその侍従という関係で、周囲をやきもきさせていた二人が、心を確かに通じあわせた前話までの展開。その後、二人はどうなるんだろう?東宮に位を譲って、降嫁して、二人の結婚式でハッピーエンド?などと思っていたのですが、最終話は、前話から10年後、東宮は東宮のまま、半年の外遊に出かける準備で宮廷は大わらわ、侍従である御園はそれに随行することになっています。
19歳で東宮侍従になったってので10年後っていうことは、御園は29歳。でも、帝はまだ帝なの!?と、ちょっぴり残念。というか、最終話では、なかなか二人は出てこず、帝をあきらめて、未亡人のイギリス人女性エリザベスと結婚し、さらにその際臣籍に下りイギリス在住の元鹿王院宮や、赤ん坊を背負って新聞社で働くお律と、二人の周囲の人たちエピソードばかりで、それこそ読んでいるこちらが、やきもきさせられます。
そこへ外遊へ行く、東宮が生母の真珠と会っているシーン。16歳になった東宮はちょっと麿っぽくて、母親の真珠は、あまり歳を取ったら顔をしていないので、ちょっと姉弟みたい。生まれた時から、離れて育てられ、真珠を実の母と思えなかった東宮が、少しずつその存在に慣れてこれたのは、御園のさりげない心遣いだったのだと、二人で話す様子に、御園が帝だけでなく、東宮の侍従として、彼が心強く育つよう心砕いてきた様子がわかります。
そして、心配のあまり東宮の外遊に反対している真珠に、東宮の成長ぶり、外遊してまた彼の世界が広がるのだということを理解してもらおうと、帝、御園が東宮と真珠が話す時間を作ったのだと、知った真珠は「二人にはかなわない」というのですが、そのシーンでやっと二人が登場。震災から復興した町並みを二人で眺めています。
国民が平和に暮らすことを使命と働く帝と、その帝が存分に働き、休めるように側にいる御園の姿に、ああこうして二人はずっと寄り添いながら頑張るって終わり方なのかな?と思いきや、東宮について外遊に行く御園に餞別は何がいいかと聞いた帝への御園の返事にニヤリ。
「私の旅立ちは東宮様の供奉であるとともに”下見”でもございます。」
いつか、帝が退位した時、世界を巡りたいという夢のために、下見をしてくるという御園の言葉に、帝もにっこり。
そして、御園が以前、「陛下が籠の鳥ならば、自分は籠になりたい」という言葉を実現するために、「あの方は陛下の御為に世界さえも籠に入れるおつもりなのね」と、つぶやく真珠の言葉にぐっときます。
帝と臣下という関係を崩すことなく、且つ悲恋になることもなく、ハッピーエンドを迎える二人の気持ちは、帝の自分の存在への責任感も包み込んで支えようという御園の大きな気持ちがあるからこそ周囲にも認められ、大切にしてもらえるんだろうなー。
出先から、宮廷へ帝を送る御園、二人は鶏の杉戸(帝の居住スペースへの扉)の前で別れます。その先へは成人男性は入れないので。(一部例外はあるけれど)そして別れの時、御園は「やっぱり餞別を」と、帝を呼び止めます。気持ちを律していながらも、本来は恋しちゃいけない帝に恋をして、それを成就させちゃう御園のいじらしさ、強引さを感じるシーン。でもやはり微笑ましい。
物語の最後は、外遊先で、御園が東宮に書け書けと言われて帝へ書く手紙の初めの文で終わります。それは、1巻の始まりの文でもあり…円満な最終回に、じんわり。
タイトルからして、この作品は明治時代をモデルにして入るけれど、ある意味設定そのものがファンタジーで、女帝をめぐる政治のドロドロや、身分違いの悲恋という面も出せたのだろうけど、それもなく。ただ、誠実に帝を思う御園の姿と、それに惹かれていった女帝の姿が、丁寧に優しく描かれていて、文明開化の時代の人々の服装や、建物の様子も楽しみつつ、久々に優しい気持ちになれる少女漫画を最後まで堪能させてくれる終わり方でした。