魔法の料理 かおすキッチン、最終話 完結3巻 感想
※ネタバレ注意です※
かおすキッチンは、魔法少女というベタな題材に対して、昭和レトロテイストな絵柄、純粋無垢な笑顔で行われる正義の残虐行為など、斬新でユーモラスな作風が好きだったのですが、中でも「正義の魔法によって敵である魔人を虐殺していく魔法少女(=主人公)たち」を悪の組織の幹部であるビーフネス目線で描く手法が気に入っていて、その手法が最終話でも光っていたので最後まで非常に面白かったです。
これまでも、主人公であるかおすキッチン側よりもどちらかというとビーフネス目線で描かれることが多かった作品なので、最終回での突然のダークオリエント解体、ビーフネスに下った僻地での長期住み込み労働という過酷な辞令には、素直にビーフネスに感情移入することができハラハラしてしまいました。それまでのストーリーから、ビーフネスの庶民的かつ比較的善良な性格を知っていたからというのもありますが、ビーフネスがストーリー上で大した悪事を働いていない(というか、大体大声で名乗りを上げるだけ)のだからなおのことです。しかし、敵であるはずのくるみ・織絵や、ラムラの涙混じりの「行かないで」という主張に救われました。くるみたちの素直すぎる泣き顔には、ビーフネスだけではなく読んでいる私の心まで溶かされ、ギャグ漫画を読んでいたはずなのにうっかり感涙してしまいました。
また、かおすキッチンほど、魔法少女サイドの恋愛模様よりも、悪の組織側の恋愛模様に特化した魔法少女モノも稀有なのではないでしょうか。悶太はくるみと恋仲になるのが王道ルートだと思うのですが、その後、悶太への恋心を明確に抱いたキツネルと良い仲になる姿が描かれています。このふたりの取り合わせが、意外でありながら、キツネルの負のオーラと悶太のスケベな一面が良い具合に相殺される素敵な組み合わせだと感じました。
そして、細やかに恋愛フラグを積み立ててきた、ビーフネスとラムネス。このふたりが結ばれることはある程度予想していましたが、まさか結婚し、子供をもうけるところまで描かれるとは思っておらず、驚きとともに感動してしまいました。くるみ・織絵たちの元に揃って現れるビーフネス、ラムネス、そして生まれたばかりのふたりの子供、という構図はあまりにも平和で、読んでいる方まで幸せな気持ちになってしまいます。ビーフネスとラムネスの赤ちゃんに、ビーフネス似の小さなツノが生えていることにくるみ・織絵が気づく、というシーンが物語全体のオチに使われているもの絶妙で、今後もビーフネスが(悪い意味で)ドキッとするシーンは絶えないだろうな、という予感にクスリときてしまいます。しかし、牛野まほ=ビーフネスということがかおすキッチンにバレる未来は不思議と思い浮かばず、仮に今後バレたとしても戦いには発展しないだろうなという確信めいた予感がしていて、安心してみんなの明るい未来を想像することができます。
ビーフネスが魔人としての生活をあっさりと捨て、人間・牛野まほとしての生活を選んだ点も意外でしたが、これでストレスフルな職場(=悪の組織)から解放されたことを考えると素直に祝福したくなってしまいます。
最終回に向けて、くるみや織絵とビーフネス、つまり魔法少女と悪の組織の幹部という敵対する者たちが、お互いの正体を隠したまま(ビーフネスは相手がかおすキッチンだと承知の上ですが)だんだん仲良くなっていく様子も見ていて楽しく、同時にハラハラしていましたが、最終的に牛野まほ=ビーフネスということを隠し通したまま交友関係を継続させたことが意外であり嬉しくもありました。グロ描写から始まった本作ですが、読後感はほっこりと温かいものでした。