娚の一生、最終話 完結編 3巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話・何処かへ
前回の話のラストで、突然大地震が起きて、かなりびっくりした記憶があります。
最終話はその地震が起きた直後から始まります。
主人公は堂園つぐみ。東京で電力会社の原子力事業部プロジェクト管理課長やっているキャリアウーマンです。30後半に入り、つらい恋愛に嫌気がさして、亡くなった田舎の祖母の家に住んでいます。
そこに突然、海江田醇という若い頃祖母を慕っていた50過ぎの男が、居候してきます。やむなく同居を始めたつぐみでしたが、自分に一目ぼれした言う海江田の求婚を断り続けます。
徐々に心を通わせ、体も結ばれたのに、つぐみの心の傷が原因で海江田との将来に踏み出せずにいました。
最終話では地震が起きた時、二人は離れ離れでした。前日に起きた出来事で、海江田が家を出ていたのです。
つぐみは大好きな街が破壊されていくのを見て、心細さを感じます。
もう戻ってこないかもしれない…と思うのです。
「…ひとりでもいい」とつぐみは思っていました。でも、それは違う事にようやく気づき始めました。
「ひとりじゃダメだから…ふたりでいる事にも自信がなかっただけ」とつぐみは思います。
失って、その大切さに気付く大事なシーンです。
ここのシーンはとても印象に残ったシーンでした。
前回のお話で、つぐみを長年苦しめた妻子ある男・中川と海江田が殴り合いの喧嘩をしました。二人ともかなりの怪我をし、中川は病院に運ばれていましたが、病院を抜け出し、避難所にいるつぐみに会いに来ました。
中川は言います。「俺と東京に帰ろう。やり直そう。君もそう思ってるだろ?」
中川は自分がいなければつぐみは生きていけないと思っています。海江田のことは自分へのあてつけだと。
つぐみはきっぱりと言います
「あなたと離れてる間、私にもいろんなことがありました。さよなら。お気をつけて」
ずっと彼を王子様だと信じてきたつぐみがようやく普通の男だと認識出来たのです。
「…さよなら。王子様。もう私は幸せには縛れない」
つぐみの心の言葉です。
海江田はかなり離れた北九州にいました。つぐみのいる街は南にあります。
鉄道が全面運休になってしまって、タクシーに乗りましたが、渋滞に捕まります。
やむなく降りて、誰かの自転車を拝借して、つぐみの下に急ぎます。
ボロボロになりながら、山坂を登り降りしてる海江田は可愛くもあり、かっこよくもありました。何が何でもつぐみに会いに行くという思いはまるで勇者のようでした。
私は彼の方が王子だと思います。
壊滅的な被害で街のライフラインが寸断されたまま、夜を迎えました。
つぐみは市役所の手伝いをしながら、職員となんとか電気を確保できないか話していると、ある事を思いつきます。
つぐみは長期休暇後、在宅ワークに切り替え、東京に戻らず仕事をする傍ら、この地域の温泉の地熱で発電所を作る事業を起こしていました。だけど、なかなか地元の人たちにその意義が伝わらず、話は進展していませんでした。
地元の理解を深めてもらおうと、地熱発電所の実験施設を作っていました。
つぐみはそこを解放して、被災者が電気を使えるようにしました。
市役所の人々が改めて彼女の事業に関心を示し、心を変えていきます。
夜の闇につぐみの作った発電所だけが煌々と明かりを灯していました。人々はここに集い、不安な夜を凌ぎます。
つぐみは被災者の世話をして回ります。
そんな時、つぐみは自転車を傍らに、布を頭から被って座っている人物に声をかけます。
自宅で休むように言い、残り湯だがお風呂に入れと促します。
家でお茶を入れようとして、水も出ない時、ふと海江田のことが心配になります。
「どこにいるのだろう…携帯電話は通じるけど、とこにかけたらいいか分からない…」
その時突然、電気が復旧し、明かりが点きます。
海江田の事を想い、涙を流しているつぐみの前に、お風呂から上がった海江田が現れます。
一言「ただーいま」と。
さっきの人物は海江田だったのです。
ふたりはリビングのテーブルでお互い祖母の十和に助けられたと話します。
つぐみは「おばあちゃんに祈ってたの。海江田がさんを守ってねって」と言いました。
少しの間を置いて、「…待ってたのよ」とつぐみが言います。
「そんな1日…2日やろ。長い事ないがな」と海江田は返します。
「長かったのよ。35年は」
つぐみのようやく言えた愛の言葉でした。
この後二人は結婚し、エンディングを迎えました。
私は海江田が好きでこの漫画を読んでいました。彼は心が折れてつぐみと一旦は距離を取りますが、つぐみの安否が気になりなり振り構わず、つぐみの下へ帰還します。
でも、帰ってきたら、飄々とそんな素振りも見せない男です。そこがかっこいいのです。