Pandora Hearts、最終話 完結24巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話は、これまでのストーリーで死んでしまったキャラクターや、敵対していたキャラクターとの和やかなお茶会という、「死に向かう主人公が見ている夢」のシーンから始まります。
そのシーンは、とても美しい日常として描かれています。最終話までの展開で、雰囲気が変わってしまっていたキャラクターなどが、かつて主人公と仲間とともに笑いあっていたその当時のままの様子でいる、そんな様子から、このシーンは主人公の「こんなふうに過ごすことが出来たなら」という思いの表れ以外にはないと感じました。
そして「夢」から覚め、「幸せな夢を見ていた」と涙を流す表情に、非常に胸を締め付けられます。
その「夢」が美しければ美しいほど、その後の展開から受け取れる悲しさや辛さが増していくのだと思います。
登場人物たちや読者がどれだけ「この『夢』のような日常だったなら」と思っても、物語の中の現実は変わりません。
主人公たちはそれに立ち向かうしかなく、しかしそれに立ち向かうと決めたのは他でもない彼らで、他人の指示などではなく自らの意思で前を向いています。
そのことが、私は何より嬉しく思いました。自分にできる最善のことが、悲しい別れを引き起こすとわかっていても、その心の揺らぎを全てが終わるまでは見せないことで、主人公は強くなったのだと感じ、私は泣きながら笑いました。
最終話冒頭のこのシーンだけで、何度本を閉じ休憩を挟んだかわかりません。
その「夢」の中が平和で、穏やかで、美しく尊いものだと感じながら、それでも自分自身の現実へ向き合う姿こそが尊く、気高いと感じました。
自らの命を使って事態を収束させた主人公は、僅かな時間、仲間たちに別れを伝えるために姿を現します。
そのやり取りで、やっと主人公が別れに対しての涙を見せて「本当は死にたくない」と弱音を口にしてくれます。
物語冒頭では感受性に乏しかった主人公が、別れることが辛い・悲しいと感じるようになれたのだと、仲間にも、読者にも伝わりすぎるほどに伝わってきます。
前述したように、主人公は強くなりました。
その強さは、困難な状況から目を逸らさない強さ、それを乗り越えるため努力する強さ、そして涙を流すことのできる強さでした。
「辛い・悲しい・寂しいと泣けることが幸せ」だと言う主人公の、涙を流しながらの笑みが心に鋭く刺さります。
それが幸せだと言えることの尊さを、私は他でもない彼が言ったこの言葉で知った気がします。
どれだけ辛くても、悲しくても、それを痛みと受け入れる強さがなければ、それはただの痛みでしかありません。
そこで思考を止め、ただ痛いと思うだけでは何にもなりません。
それを受け入れ、辛い・悲しいとなぜ思うことができるのか、自分を取り巻くどんな環境がその痛みを辛く感じさせるのか、そこまで考えを巡らせることができるほどの心の余裕があることは、確かに幸せであるのかもしれません。
この最終話のテーマは「再会」だと、私は感じています。前述した「夢」の中での、死んでしまった友人たちとの再会を初め、作中で混乱している様子の多かった登場人物が正気に戻り、家族と再会できたり、安否が不明だった登場人物の帰還であったりと、たくさんの登場人物たちが再会を果たし安堵することができた最終話でした。
そして最後に再会を果たしたのは、輪廻を経て帰ってきた主人公と、彼が帰ってくると信じて待ち続けていた相棒でした。
彼らが涙を流しながら抱擁するシーンでは、もう涙で絵が見えないほどでした。
主人公が帰ってきたシーンからは、彼らの目元は描かれていません。
口元しか表情が見えなくても、彼らがどんな表情で泣いているのか、笑っているのか手に取るようにわかりました。
私はこの最終話を読んで、登場人物たちと泣きもしたし、笑いもしました。
それはこの最終回が、彼らの痛みと喜びをまざまざと描いたものだったからだと思います。
別れの痛みに共感し、再会の喜びを自分のことのように思える、そんな最終話を読むことができたことが、とても嬉しかったです。