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お茶にごす。、最終話 完結11巻 感想
※ネタバレ注意です※
お茶にごす。の良いところはたくさん思い浮かびますが、中でも特に素晴らしいのが、「まークンにとってのヒロインが最初から最後まで一貫して部長である」という点です。
多くの漫画やドラマ、そしてもちろん現実でも、主人公の周りにはヒロイン以外にも魅力的な女の子がたくさんおり、多くの場合、主人公はその女性たちの間をフラフラ行き来します。お茶にごす。の場合は夏帆ちゃんが寄り道される女の子のポジションといえます。もしくは、最終的に正式なヒロインの座に落ち着くポジションともいえるでしょう。主人公と反目し合い、しかし段々とお互いを認め合っていった仲なのですから。
しかし、まークンと夏帆ちゃんは最後まで「そういう雰囲気」になりませんでした。最終話は「まークンを川に蹴り落とした夏帆ちゃんが、自らの恋を諦めようとしていたまークンの背中を押す」という他の物語ではなかなか無いようなシーンからスタートしますが、そこには男同士の友情のような爽やかな空気しか流れておらず、新鮮で感動しました。
また、夏帆ちゃんがまークンの様子をずっと気にしてくれていたことも分かり、健気で、不器用だけど優しい夏帆ちゃんのことがもっと好きになりました。
そして、そんな夏帆ちゃんをずっと見てきた山田の涙に、私も号泣させられました。山田は最初、夏帆ちゃんと同じく、まークンが部長に振られることを前提に考え、まークンの恋路を面白がってさえいました。しかし、段々と「二人が結ばれることもあり得るかもしれない」という風に考えが変わり始め、最終的には、夏帆ちゃんがまークンの背中を押すのを見て自覚なく涙するにまで至りました。この感情の変化が胸に来ました。
また、山田にとってのヒロインも一貫しているのも魅力的です。山田は女性に関しては軽い性格で、作中でも何人もの女性との交際経験があることが明かされています。しかし、山田の夏帆ちゃんへの一途な様子を見ていると、真剣な交際経験、本気の恋というものはあまり無かったのではないかと思います。それくらい、山田にとって夏帆ちゃんは新鮮で魅力的な女の子で、最終話でもその印象は崩れないどころか一層増しているようで、山田が惚れ直すのも納得だと感じました。
そして、夏帆ちゃんに背中を押され、嬉しそうに部長の元に走るまークン。しかし、途中で怖くなり、失速してしまいます。ここがリアルで胸に来ます。脳裏にちらつく、最後に別れた時の部長の表情。しかも相手はもう大学生で、より一層別の世界の人になってしまったように感じると思います。そういったことが頭をよぎるようになったのも、まークンが茶道部で過ごした時間の賜物でしょう。こういうことを考えられるようになるのは辛いですが、まークンが目指す「優しいヤツ」に確実に近づいていることを感じ、目頭が熱くなります。
そして、最後の見開きページ。振り向くまークンと、まークンの気持ちを知ってか知らずか、屈託のない笑顔を浮かべて両手を広げ、嬉しそうにまークンを迎える部長の姿が画面いっぱいに描かれています。この笑顔に、またもや私は泣いてしまいました。部長にこんな風に迎えられたまークンの気持ちを考えると、涙が出ると同時に、胸がぽかぽかと温かくなります。
物語が、この「まークンと部長の再会シーン」、そして「部長にフラれたまークンをどう慰めようか」と談笑する茶道部員たちの声で締めくくられているのが本当ににくいです。物語の最高地点で幕を下ろされたかのようで、気持ちが高揚したままなのに、ほっと落ち着けて、この最終回はいつまでも忘れられません。
お茶にごす。は最後まで、心をこめて点てられたお茶のように、味わい深く、あたたかく、とても優しい物語でした。
