ヒメゴト ~十九歳の制服~、最終話 完結8巻 感想
※ネタバレ注意です※
ネットの広告で絵が気に入りなんとなく読み始め、エロ漫画かと思いきや美しい未成年の少年少女の群像劇に思いのほか引き込まれてしまい、まんまと完結まで読んでしまった作品です。
昔からの男勝りなキャラに悩み、女子としての欲求を拗らせて高校生の制服で夜道を歩くことに快感を覚えるボーイッシュ女子の由樹、
表面ではイケメン男子として人気物として振る舞うが、裏では同級生の未果子を模倣して女装する佳人、
少女として見られることに全てをかけ、セーラー服を纏いオジサンと寝ることで「お父さん」への復讐を果たす未果子の3人。
文字にしてみるととんでもない変態の面々です。笑
最終話ではその3人がもつれてこじれた19歳の夏の事件が終わり、20歳になった1年後の姿が描かれたお話になっています。
美容専門学校に再入学した佳人から登場し、今までの「憧れの女の子」の模倣をした女装ではなく、佳人自身の佳人らしい女装姿で、女装男子である自分をオープンにし周りにもそれを認めてもらっている様子。
二十歳(大人)になって男らしくなり美が失われてしまうことを怖れていた佳人ですが、以前の未果子の真似をした姿より堂々として美しく描かれていました。
続いて未果子はかつてのクラスメイトと女子会。
これまでの偽った表面上のやりとりではなく、援助交際をしていた過去や現在の風俗店で働くことをひとつも恥じずに語る姿に、友人の2人もこれまでとちがうカッコいい未果子の姿を尊敬しています。
さらには成人式に喪服で登場し自分を噂する女子に中指を立てるというロックすぎる未果子さん。
個人的に未果子の揺るがない姿勢がかなり好印象で、一気に好きになってしまいました。
そして主人公の由樹はというと、成人式での美しい晴れ着姿で登場。
これまでの男女の姿はなく、女性らしく美しく、悪く言えばその他大勢の女子に紛れ没個性とも言えますが、本人が望んでいた真っ当な女子らしい格好を見て、これまで由樹に片思いしていた幼馴染もちゃんと気持ちを吹っ切れたようです。
彼らはこれまで、自身の心と身体のギャップや大人になることに不安、不快感を抱き、周囲の求めている(と勝手に思い込んだ)自分の姿を表面上では保ち、だれにも見せない秘密を抱えて生きていました。
しかし、暴かれた秘密を認めてさらけ出しても世界は終わらず、むしろそれぞれの個性となって輝き始めます。
未成年の彼らが抱える秘密はとてもミステリアスで甘美で、現実味のない存在のように描かれていましたが、秘密を暴かれ大人になった彼らは、なんとなくテレビで見たことがあるような、友達から聞いたことあるような、あるいは自分に当てはまるような、「こういう人もいるよね」な人たちでした。
この作品の3人の少年少女は少し特殊な秘密を抱えていましたが、おそらく殆どの人に思春期の秘密や悩み、葛藤があり、それを認めるか、そのまま溜め込むか、手放すかしてみんな大人になってゆきます。
最終話で少し未来の姿を描くという、かなりありふれた手法ではありますが、劇中の引き込まれるようなカオスな非現実感から一転し、一気に共感さえさせるという非常に秀逸なまとめ方です。
作中の援助交際の描写などからは想像もできない、見事に爽やかな最後を描いてくれました。
ネット広告ではエロ漫画のように描写されており、女性に勧めるのは少し気が引けますが、少年少女が大人になるために、自己を認めるために、何者かになるためにもがく姿を美しく描いた、とても素敵な漫画でした。
大人になることに絶望していた彼らにとって、これ以上ないハッピーエンドなのではないでしょうか。
個人的には、3人の身体的な個性を活かす服の描き方がとても上手で、ファッションの勉強にもなる漫画だったなとも思います。笑