悪し妻かたり　最新話 / 13話

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『もし 正しい道を選べていたのなら』

「殺せ！」

「エアルダールの犬を殺せ！！」

「ハイルランドの誇りを穢すものを殺せ！！」

「殺せ！！」

「アリシア様 こちらです！」

「お早く！　　こちらにはまだ暴徒の影はございません」

「建国を祝う 星祭りの夜だというのに　　どうして こんなことに…」

「陛下は…」

「フリッツ様は ご無事なの！？」

「お姿が見えないわ　　まさか暴徒の手に…！？」

「お救いしなければ！」

「アリシア様！　　アリシア王妃様 お気を確かに！」

「アリシア様は 誇りあるチェスター家の血を引く最後のお方　　ハイルランドのためにも 今はどうか御身のことを第一に…！」

「ハイルランドの王はフリッツ様です！」

「我が夫を軽んじることは許しません！」

「私はフリッツ様を お救いに参ります」

「志を同じくする者は 私に続きなさい…」

〔しん…〕

「……ッ ――いいわ」

「私が陛下をお連れします　　貴方たちは先に行き 道を拓いておきなさい」

「アリシア様！？ ですがそれは…」

「言うとおりになさい！　　これは王妃の命令よ！」

「アリシア様！？」

「アリシア様！！」

『先の戦争で ハイルランドは国境を隣接する 隣国エアルダールに敗れた』

『私の父 ハイルランドの先王ジェームズは戦場で エアルダール兵の矢を受けて崩御　　その後 両国で結ばれた講和の条件は』

『エアルダールの女帝エリザベスの嫡子フリッツと　　ハイルランドの王女アリシアとの 婚姻関係の締結』

『それが 戦勝国による 敗戦国の支配のための政略結婚だと 誰もが知っている』

『それでも 私は――…』

「フリッツ様！」

『初めて会った その時から』

「ここに いらしたのですね！」

「お怪我はありませんか……」

『フリッツ様を愛している――』

『――そう』

「シャーロット…様…」

『フリッツ様の心が これっぽっちも私に向いていないと 知っていても』

「あ…　　アリシア様…」

「いたぞ！ こっちだ　　星霜の間だ！」

「……！」

「水路へお向かいくださいませ 陛下　　私の従者が そこで陛下をお待ちしております」

「シャーロット様も ご一緒に」

「だが そなたは…」

「お早く！！」

「そこを お退きください　　アリシア王妃」

「剣を引きなさい　　この先に行くことは なりません」

「――恐れながら」

「あの男…フリッツ王は 先王陛下の敵であり　　ハイルランドに圧政を敷いただけでなく」

「愛人を連れ込んで 貴方様を愚弄し　　我らが誇りを 幾重にも踏みにじった男です」

「そのような男を　　王妃様がお庇いになる必要が どこにありましょうか」

「民が私をハイルランドの象徴というなら…」

「フリッツ様は その象徴たる私が愛するお方！　　チェスターの血に忠義を尽くすというのなら」

「その剣は フリッツ様を護るためにこそ 使うべきではありませんか！」

「………」

「この国の誇りは かくも落ちぶれたか」

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