天使な小生意気、最終話 完結20巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話では、本作の最重要な伏線にして物語の柱でもある、「恵はどのように女になったのか?」そして「恵と源蔵は幼少期に出会っていたのか?」のふたつの謎が見事に解明されました。天使な小生意気ではこれまでにも、大胆な絵柄やラブコメチックなメインストーリーからは想像もできないほどの細やかかつナチュラルな伏線張り、そして違和感のない鮮やかな伏線回収が魅力的でしたが、最終話ではその手法が特に光っていて、読み終わったあと、叶うなら記憶を消してまた最初から読みたい、とさえ感じました。
まず、最終話で「ストーリー上もっとも重要な過去編」を描く、という構成に驚きを禁じえませんでした。その過去編が種明かしであり、すべての始まりであり、メインストーリーが終わったあとに恵と美木の記憶を辿る、つまり後日譚ともいえるという、作者の圧巻の構成力に度肝を抜かれました。
そしてその過去編によって明かされた、「恵はどのように女になったのか?」という点。こちらは最終話までのストーリーで、実は「恵が男から女になった」のではなく「恵と美木だけが“恵は元々男だった”と思い込むよう暗示をかけられていた」ということが意外にも安田によって(その時はあくまでも推測の段階でしたが)解明されていましたが、最終話ではその推測が裏付けられるとともに、なぜ恵が「自分が元々男だった」と思い込むことになったのか、そしてなぜ恵だけではなく美木までもがそう信じていたのか、という点が明らかになりました。
幼い身ながら、すでに見も知らぬ相手との結婚が決められていた美木。自分で髪の毛を切り落とす美木の姿には、すでに済んだ話と分かっていても胸が痛くなりました。この描写が、恵の無茶な願いへの説得力をより増しています。
そして恵が、自分が美木を守れるように「男になりたい」と願うきっかけになった事件は、本作のクライマックスである岳山との対決に通じるものがあり、また恵が岳山との対決で、仲間たちの協力を得ることによって「自分が男ではなくても」美木を守ることができたという事実をより鮮明に感じられ、感動しました。
また、美木を救うストーリーの中で大きな役割を担う源蔵との出会いが、恵と美木に魔法がかけられるきっかけになった事件にも深く関わっていたという点にも驚きました。それまでのストーリーの中で「源蔵側には恵・美木との幼少期の出会いに心当たりがある」という描写がされていたこともあり、無理やり感を感じないところもすごいです。
また、メインである学園モノにそぐわない「小悪魔」というキャラクターが、恵と美木にある意味「常識の範囲内の」魔法をかけていたという点も、小悪魔の存在がこの物語に妙に溶け込んでいる要因のひとつだと感じました。小悪魔の「願いは叶ったか?」という問い、そして恵の「叶ったよ」という答えには、何度読み返しても涙させられます。
源蔵と恵がはっきりくっついたのが、意外でもあり、読後のスッキリ感の一因でもあると思います。最終話直前の恵と源蔵のキスは、学園もの・恋愛ものの鉄板である以上に、「キスで魔法が解ける」というベタな読みの実現によって、小悪魔の存在や魔法の説得力をさらにアップさせていました。また、恵は恋愛対象として源蔵を選びましたが、恵の一番大切な人は一貫して美木であり、源蔵はそんな恵を力業で支え、恵のための道を切り開く存在として描かれてるのも素晴らしく、そんな源蔵だからこそ恵に選ばれたのだと感じました。
天使な小生意気は、登場人物もストーリーも魅力的でずっと楽しく読んでいましたが、最終話を読んで改めて、これは唯一無二の作品だと感じ、私はこの作品を生涯大切にするだろうと思いました。