太陽が見ている(かもしれないから)、最終話 完結8巻 感想
※ネタバレ注意です※
物語の最後には色々な解釈がありますが、とてもハッピーエンドで一番綺麗な終わり方だったな、と思いました。
岬、楡、日帆がそれぞれで幸せな空気感に包まれた終わり方だったな、と思いました。
いくえみ綾さんの絵は、とてもリアルで等身大の人々が登場します。イケメンの設定の楡であっても、変顔はしますし、眉間にしわを寄せたり、白目をむいたりします。
その仕草一つ一つが愛おしくて、最終回ではその力のなさそうな瞳であったり、力なく笑う表情がたまらなく可愛かったです。
私はいくえみ男子がとにかく好きで、今回の作品でもふんだんに盛り込まれていました。
その中でも楡は、優しいけれど、どこか後ろ暗くて悲しい運命に巻き込まれて、どうにか幸せになってほしいと思っていたんです。
なので、最後は岬と結ばれて本当に良かったと思います。
楡なりにずっと日帆を守ろうと、支えになろうとしましたが、最後に岬の一言で全て変わったな、と思いました。
いくえみ綾さんの作品は、本当に奥が深いです。人間と人間のあいだにある関係性を、とても緻密に繊細に描いてくださります。
単純に好き、という言葉だけで、これほど胸に刺さる事はないと思います。
いくえみ男子だけではなくて、もちろん女子もとても魅力的です。
岬は特に、裏がなくて素直で明るく、前向きになれる性格をしていて、とても好きでした。
楡と一緒になれて良かったね、と心から祝福したい気持ちになりました。
また、一番好きなシーンが、最後に岬と楡がかつて二人で住んでいた家を掃除するところです。
昔は二人だけで、二人だけの世界で穏やかな生活を送っていましたが、それも今は蜘蛛の巣が張られて埃まみれでした。
その最後に、岬と楡が二人寄り添いあい、窓の光に目を閉じる、というのがとても綺麗で素晴らしかったです。
言葉がなくても、二人の心がひしひしと伝わってきます。最後のコマはとてもお気に入りのシーンです。
そしてなによりもこの物語の中でキーパーソンとなったのが、日帆だと思います。
彼女は突然出てきて、岬と楡の仲を引っ掻き回したかと思うと、楡を奪っていった、と悪役のような立ち回りなのだと思っていました。
ですが最後まで、日帆のことは憎めないキャラクターになっていました。
ずっと精神的に病んでいて、だれか助けを求めていて、とても弱くて。
そんな調子でずっと楡にすがっていましたが、最終話になって彼女が一人で生きる姿がとても頼もしく、成長したのだなと感慨深くなりました。
最終話の中で、日帆が一人で遊園地に行くシーンがあります。
漫画の中で切り取られるのは、くしゃみをしたりお茶を飲んだり、飴を舐めるといった日常的なことばかりです。
でも、そこに全て詰まっているなと思いました。
遊園地のベンチにぼうっと座った後、日帆は「スカイツリー見てないや」と言って走り出します。それはもう、誰かに頼ることもなく。
最後のコマに描かれた日帆の背中がより大きく見えました。
彼女はこの後きっと幸せになれるだろうな、という予感がしました。
この作品のタイトルは、「太陽が見ている(かもしらないから)」という少し変わったタイトルになっています。
太陽に例えるのは、人によって違います。楡にとっては岬ですし、岬にとっては楡ですし。
そんな風に太陽と思う存在がいるけれども、最終話にいたるまで、みんな離れ離れでした。
でも、かもしれないと思う事がとても重要だったのだなと思いました。
最終話で見せた岬の穏やかで幸せな表情。今までずっと積み重ねてきたその生き方が、実を結んだのだなとほっこりしました。
物語の重要人物はこの挙げた三人ですが、周りの人々も絶対に幸せになって欲しいと思えるような、そんな物語でした。