こどものおもちゃ、最終話 完結10巻 感想
※ネタバレ注意です※
大好きな羽山がロスに行くことを聞き、離れ離れになってしまうことが分かった主人公の紗南は「人形病」という小さい頃発症した全く笑うことができない病に侵されてしまいます。
「人形病」というのは実際にない病ですが、紗南は小さい頃に母親におきざりにされたことが自分でも気づかないうちにトラウマになっており、また羽山に置いていかれる、一人ぼっちになるのだという気持ちが再発を引き起こしてしまったのだと思います。
いつも明るく笑顔の紗南の変わり果てた姿に家族や友達、そして羽山も大きく動揺しますが、元の紗南に戻れるよう治療に協力していきます。
ただ病はいっこうに良くならず、羽山のことだけ忘れてしまうという最悪の状況にも陥ってしまいます。
しかし周りの協力によって紗南は記憶を取り戻しますが笑顔は戻りませんでした。
羽山も気持ちの限界にきていた頃、紗南は以前から行こうと言っていた遊園地に羽山を誘います。
体が弱っている紗南を連れて行くのは危険なことはわかっていましたが、紗南の望みを叶えるために周りの大人に内緒で二人は遊園地に向かいます。
楽しい時間を二人は過ごしましたが、無理をした紗南はその後のホテルで体調を崩してしまいます。
どうすれば紗南が治るのか悩んだ末羽山は、今まで見せないようにしてきた紗南が笑えてない写真を見せます。
普段普通に笑えていると思っていた紗南は現状を認めようとせず動揺し、羽山に不満をぶつけます。
すると羽山は紗南に心からの気持ちをぶつけます。
この場面は今まで冷静で、自分の感情を出すことがなく、病気になってから優しかった羽山が泣きながら自分の気持ちを紗南にぶつける重要なシーンです。
ボロボロ泣きながら「紗南がいなくなったらダメになるのは自分の方だ」という羽山に心が動かされます。
紗南も心に大きなダメージを受けていましたが、羽山の方も限界だったのです。
今まで見たことのなかった羽山の涙と、感情をぶつける姿に、寂しいのは自分だけじゃなかったのだと、自分のことしか考えていなかったことを恥じ、お互いの気持ちを知り強く抱きしめ合います。
こども二人の抱擁シーンですが、母性が感じられとても美しいシーンです。
お互いの傷の深さを知り、自分のことだけでなく相手の気持ちを知ること、伝え合うこと、弱いところまでも知り、愛すことの大切さが表現されています。
翌朝紗南は少し表情が戻っており、家に戻ります。
そこで心配していた多くの大人に守られていたこと、そして羽山がロスに行くのは右腕を治せる医者に会いに行くためだということを知らされます。
「こどものおもちゃ」は他の少女漫画のように周りの大人たちが完璧というわけではないのですが、子供と共にもがきながら成長していくところが醍醐味だと思います。
大人に助けられながら、また子供に教えられながら成長し、お互い絆を深くしていきます。
腕の治療を受けれることを知った紗南は喜び、自分も心の病気と向き合い、カウンセリングを受け克服することを誓います。
数年後お互い回復した羽山と紗南は再会を喜びます。
そして紗南は心の病を経験したことで、同じようにいじめや家族問題等、色々な問題で心に傷を負っている子達の力になろうとラジオパーソナリティーで傷ついた子達に寄り添っていきます。
自分の病で精一杯だった紗南が病気を克服し、別の子の心の傷に寄り添っていけるようになった姿は感動します。
きっとこれからも色々な問題が二人やその周りに降りかかるでしょうが、前のように笑えるようになった紗南や、そんな紗南にしっかり寄り添う羽山、周りの友達の姿の最終話に大丈夫だろう、と思えると共に、自分もこの子達のように頑張ろう、と勇気をもらえる作品です。