さくちゃんとのぞみくん、最終話 完結2巻 感想
※ネタバレ注意です※
「さくちゃんとのぞみくん」は全2巻で短いお話ですが、その最終話は、「この話はここで終わるべきだったのだな」、と感じさせてくれる最終話です。
さくちゃん(女の子)とのぞみくん(男の子)は幼馴染で、最終話では高校2年生です。
どちらもお母さんとの関係で悩んだ経験を持っています。
のぞみくんのお母さんは、旦那さんとの関係から、息子が男の子であることを否定するような行動をたくさんし、のぞみくんが女の子と付き合うと邪魔をしてくるような人ですが、最終話ではさくちゃんがそんなのぞみくんのお母さんと対立するところから始まります。
さくちゃんが「男の子じゃダメなんですか」と言い、のぞみくんのお母さんに自分の経験を話し出します。
お母さんに「はあ?」と言われても、頑張って話します。
そのさくちゃんが健気で、本当にのぞみくんのことを思っているなあというのが、ひしひしと伝わってきます。
さくちゃんは、高校一年生のとき、のぞみくんに一度告白して振られていたのですが、その後のぞみくんと少し距離を置いた後、マザコンだとか彼女とっかえひっかえの奴とか言われていたのぞみくんの、「戦友」になろうと決意していたのです。
お母さんに伝えたいことを伝えて帰るさくちゃんを、のぞみくんがお母さんの制止を振り切って追いかけます。
そのときさくちゃんはのぞみくんに、のぞみくんを好きになってよかったことを告げ、「いままで、ありがとう。」「これからは戦友としてよろしく」と伝えます。
このさくちゃんがものすごくかっこいいのです。
振られた相手の気持ちをちゃんと考えて、相手のことを考えて行動して、でも必要以上には踏み込まないという、このさくちゃんの態度は、なんというか潔くて清々しいです。
さくちゃんがのぞみくんと戦友として関わることを決意した一方で、逆にのぞみくんはさくちゃんへの自分の恋心に気付きます。
大事だからこそ、付き合ってお母さんに邪魔をされて別れたくない、傷つけたくないからこそ、さくちゃんを振ってしまって、お友達のままでいようとしたのぞみくんです。
その気持ちはのぞみくんもなんとなく分かっていたし、この時点で読者にも分かっています。
でもさらにのぞみくんはここである決意をし、さらなる行動に出ようとします。
それをここではっきり描かないところがいいです。
3年生になって、さくちゃんはのぞみくんが卒業と同時に家を出ることを知ります。
そして卒業式の日、のぞみくんはさくちゃんに「じゃあまた」と言います。
さくちゃんは、「またなんて、あるわけがない」と思って別れようとします。
その後、のぞみくんが「小野寺(さくちゃんの苗字)」と言って、駆け寄ります。このシーンで終わりです。
なんというか、この終わり方がすごくよくて、全2巻という短さにも関わらず、大満足してしまいます。
この最終話のいいところは、終わり方だけでなくて、今後の二人について、明るい希望が持てるところにもあると思います。
多分、家を出て、遠くに行ったとしても、のぞみくんはさくちゃんと付き合うと思います。
そして、のぞみくんのお母さんが邪魔をしてくると思います。
でもこの二人なら、きっと大丈夫、と思えてくるのです。
ラブストーリーだけどそれだけでない、若い二人の成長をちゃんと書いている、なんだか人として本質的に大事なこともちゃんと書いている、とても爽やかで感動できるお話です。
このお話の中で、他にも良いキャラクターがいて、名前を有川くんというのですが、小学生の頃からのふたりの幼馴染で、途中からさくちゃんのことを好きになります。
小学生のときは、髪の長いのぞみくんを「カマ岡(のぞみくんは西岡)」と読んだり、背が高くて男の子っぽくしていたさくちゃんをからかったりしていた子ですが、この子がさくちゃんののぞみくんへの恋心を知って、邪魔するでもなく、この子なりにさくちゃんを支えようとしているところが、なんとも可愛らしいです。
最終話では、この子が将来のお仕事として学校の先生を選び、その理由として「小学生男子に、女子にはやさしくしろと教えるんだ。」というセリフでほっこりします。