ペンとチョコレート、最終話 完結2巻 感想
※ネタバレ注意です※
最終話の主人公は高杉という女性書店員です。
彼女の勤めている書店で本来の主人公であるフタバトワコのサイン会がありましたが、寝坊をしてしまい高杉はフタバトワコに会うことは出来ませんでした。
同僚にミーハーと笑われた高杉は大学受験の際にフタバトワコの漫画で使われていた漢字が大学の入学試験で出題されたことで合格することが出来たと言い、その時のお礼と4年間待っていたファンがいたことをちゃんと直接伝えたかったと悲しみます。
その後勤務中にフタバトワコを木ノ下オレンジという別の新人としてデビューさせ人気漫画家とした編集者の大野が訪れます。
大野に対して高杉は木ノ下オレンジの作品が早く終わるとは意外と言います。
また連載をするのかという高杉の質問に大野は「(フタバトワコに戻ったから)木ノ下オレンジは死にました。」と返します。
そしてフタバトワコの漫画の上にそっと木ノ下オレンジの作品を乗せて書店を去って行きました。
書店からの帰り道で高杉は買ったばかりの漫画を漫画を抱えて将来漫画屋敷を建てたいという妄想を膨らませながら電車に乗ります。
そこで一組のカップルを見かけたのですが、まさにその二人がフタバトワコとその編集秋元だったのです。
しかし、高杉はそのことに気づかず買ったばかりの漫画を読み始めたのでした。
最終回の話はフタバトワコの読者という本筋と関係ない人物をメインにすることで登場人物達のその後がテンポ良く描かれています。
また、彼女の「ちゃんと4年間待っているファンがいることを直接伝えたかった。」というのは漫画家冥利に尽きる台詞ではないでしょうか。
たとえ人気のなかった作品でも、どこかに読者はいてその人の人生に少なからず影響を与えているというメッセージだと感じました。
また、漫画家に人気が出なくても好きな作品を描かせることが正しいのか、描きたいものを諦めてでも売れる作品を描かせることが正しいのかどちらが正解か分からないという問題提起もあります。
大野がフタバトワコの個性を殺してしまったことを後悔しているシーンや秋元がフタバトワコと仕事の話をしているシーンからもそれを感じました。
どちらが正しかったという結論は出ていませんが、この作品では描きたいものを諦めなかった結果漫画家としても活動が出来、思いを寄せていた編集者とも仲良く過ごしていくことが出来るという締め方になっています。
フタバトワコが木ノ下オレンジを辞めてからどのような経緯でまたフタバトワコに戻ったか、秋元との心の距離をどのように縮めたのかは一切描かれていません。
高杉には電車内での二人のやりとりから恋人と思われていましたが、もしかしたらフタバトワコと秋元は漫画家と編集者という枠を超えていないかもしれない、それは私たちが自由に考えて決めていいことなのです。
明確な答えを敢えて出さないということで、何回も読み返したくなる作品にしてくれていると思います。
読者の多くは漫画家でも編集者でもないと思うので、最終話の主人公である読者の高杉が1番共感しやすいと感じました。
帰り道で買ったばかりの漫画を抱えて、「将来は漫画部屋を作って、子供達に開放して、カフェを作ったりしよう、そうしたら世界はもっと素敵になる」という妄想は漫画好きなら一度はしたことがあると思います。
そんな漫画好きの心に寄り添ってくれる高杉が最終話の主人公で良かったです。
作者さんも漫画のことが好きだからどの登場人物の気持ちもリアルに描けるのだと思いました。
最後の最後で漫画は漫画家だけではなくアシスタントや編集者そして読者など多くの人がいて初めて成り立つという当たり前のことを改めて実感することが出来ました。