小さな恋のものがたり、最終話 完結43巻 感想
※ネタバレ注意です※
ちいさな女の子・チッチが、ノッポのサリーをけなげにおいかけるお話です。
一見不釣り合いにみえる相手に恋をして、待ち合わせ場所で何時間待たされようと、ほかの女の子にモテモテだろうとあきらめずにアタックしつづけるチッチ。
ふたりは早い段階で両想いなようにもみえますが、どこかチッチの片想いのような気もします。
このまんがの魅力はなんといっても、わたしたちがいつしかわすれてしまったような、とにかく純粋で甘酸っぱい恋。
そんな美しい恋の物語がどのような結末を迎えるのかは、このまんがにおいて重要な問題です。
晴れてふたりが両想いになるというのはなんだか違う気がします。
なぜならもともとサリーだってチッチの魅力に気づいていて、それでも決定的なところまでいっていない状態がつづいているだけのようにも思えるからです。
そんなふたりが両想いになるのに、これ以上なにが必要でしょう。
「すき」という具体的な言葉以上のものをふたりはすでに共有しているように感じます。
そこにあえて名前のついた関係性に発展させるのは野暮ではないでしょうか。
また、この43巻にもわたるまんがを最後まで夢中で読みつづけたのは、片想いのすばらしさが描かれているからです。
すきな人のちょっとした言葉や行動に一喜一憂したり、その姿がちらっと目に入るだけでなんだか世界が明るく見えたり…
片想いのつらさももちろんまんがでは描かれますが、それ以上に片想いでしか味わえない瑞々しさが強調されています。
チッチが泣いたり笑ったりしながらちょこちょこぴょんぴょんとかけまわっている姿の眩しいこと!片想いもすてきだなあと思えてくるのです。
そんな物語を両想いで完結させるのは、なんだかもったいないような気がします。
一方で、ふたりが結ばれないというのもおかしい気がします。
なぜなら、いくら不釣り合いにみえても、チッチの一方的な恋心に思えても、ふたりはとっくに恋人同士のようなものなのです。
このふたりをどうやってバッド・エンドにできるでしょうか。
それに、これまでに何度か危機的な展開はあったのです。
それらを乗り越えてきたふたりにはもうこわいものなんてないでしょう。
もしそんな結末にするのであれば、とっくにしていたに違いありません。
では、どんな結末が「正解」なのでしょうか。
このまんがの最後を読むまでは、どうかこのすばらしい恋にぴったりの結末でありますようにと祈るような気持ちでした。
そして最後まで読み切ったとき、わたしはこの結末がゆるぎない「正解」だと確信しました。
印象的なのは、サリーからチッチへの深い愛が感じられることです。
夢を追いかけるために留学することを決めたのはサリーのほうです。
しかし、出発のぎりぎりまでチッチに伝えなかった(おそらく伝えられなかった)こと、帰ってくるのを待っていてほしくないと言ったこと、その理由を言葉で表さなかったこと、「出発前にも一度チッチの顔みておきたくなって」という言葉…
もしかしたらサリー自身気づかないうちに、チッチのことがなくてはならない存在になっていたのかもしれません。
これは決してチッチの片想いの物語ではなかったのだということに気づかされます。
そして、さよならを言って去っていくのはチッチのほうです。最後にすてきな詩があります。
「いつかあなたと出会ったとき ステキな大人になっているようがんばるから いってらっしゃいサリー 思いっきり自由にはばたいて…」
いつかサリーが帰ってきたときにすてきな大人になっていることを胸に誓って空の飛行機を見上げるチッチ。
いつまでも幼いようにみえたチッチは、わたしが気づかないうちにずっと大人になっていたのです。
このあとふたりはどうなるのでしょうか。
無事に再開して、もう二度とはなれないことを約束するのかもしれません。
それぞれにべつの人が現れているかもしれません。もしかしたら、もう決して会うことはないのかもしれません。
でも、そんなことは重要ではないと思います。
なぜならふたりにはかけがえのない思い出があります。
そのいつまでもあせることのない物語は、ふたりのなかで確かにきらめきつづけることでしょう。
すきだからこそ言葉にしない、すきだからこそさようならを言う。
綺麗で尊い恋の物語をこんなにも美しいままおわらせたまんがはほかにないと思います。
そしてまたこのまんがもわたしのなかで、いつまでもきらめきつづけるに違いありません。
まるでわたしの青春の思い出であるかのように。