ときめきミッドナイト、最終話 完結9巻 感想
※ネタバレ注意です※
伝説のファンタジー少女漫画「ときめきトゥナイト」を、原作者の池野恋さん自らセルフカバーなさった「ときめきミッドナイト」は、「ときめきトゥナイト」の設定を入れ替えた作品です。
「もしも蘭世が魔界人ではなく人間だったら」「もしも真壁くんが最初から魔界人の王子様だったら」「もしもアロンが人間界で育てられた魔界の王子様だったら」など、「ときめきトゥナイト」のファンであれば一度は思いついた設定が実現されていて楽しい作品となっています。
もちろん、「ときめきミッドナイト」からこのワールドに入った人にも、ぐいぐい引き込まれるようなテンポの良さと魅力が満載です。
そんな「ときめきミッドナイト」は、果たしてどのような結末を迎えたのでしょうか。
いよいよ魔界と人間界、そして冥界のパワーバランスが崩れることへの影響が、人間界にも自然災害という形で表れ始めます。
そのパワーバランスを崩しているのが「ひずみ」と呼ばれる穴のような空間です。
この「ひずみ」の原因を突き止めるべく奔走する蘭世と、二人の魔界の王子シュンと亜論、冥界の女王ユリエルは、かつて自らを犠牲にするために「ひずみ」に飛び込んだユリエルの婚約者ルシオンと再会を果たします。
「ひずみ」の中で意識を失いながらルシオンが見てきたもの、聞こえてきたものは、人間たちの欲望や野心、嫉妬、怒りなどのネガティブな声とエネルギーの渦でした。
ルシオンの語りは、読者たちの心をえぐるような「自分にも覚えがるかもしれない・・・」と、はっとさせられるようなものがあります。
ここからが、この作品世界の理念である「無償の愛」がキーワードとして炸裂します。
これは、作品を超えた池野先生の真骨頂と言えます。
なんといっても主人公の蘭世です。
魔界人のシュン、亜論や冥界人のユリエルのように魔力を持たない人間ですが、これまで魔界にもたらしてきた奇跡の原動力は、蘭世の「信じる心、諦めない心」というエネルギーです。
ルシオンの話を聞いた蘭世は、「ひずみ」の穴をふせぐためには、ネガティブエネルギーと対極にあるエネルギーを集めることが必要と気づきます。
心が温かくなる展開は、まさにこの作品一番の魅力が凝縮されています。
そして、蘭世たちは人間界の「愛情、思いやりのエネルギー」を魔界の指輪に集め始めます。
蘭世の父・望里や、親友である瑤子など、蘭世たちとこれまでかかわってきた人間界のキャラクターたちが蘭世たちを応援するエネルギーを無意識に発揮するシーンは、とても自然です。
たくさん集まった温かな愛のエネルギーに「人間界をなめんなよ」と喜びの声を上げる亜論と元冥界人のキャラクターの演出が楽しいです。
そして、いよいよクライマックスです。
人間界、魔界、冥界それぞれの世界の代表である蘭世、シュン、ユリエルが「ひずみ」の穴に向かいますが、あまりのネガティブエネルギーのすさまじさに蘭世は意識を失ってしまいます。
どうにか加勢に来た仲間たちの力を得て、シュンたちはそれぞれの世界のエネルギーを魔界の指輪と冥界の杖に込めて「ひずみ」に投げ入れ、脱出します。
ところが、「ひずみ」の穴はふさがっておらず、蘭世も心肺停止状態に陥ってしまいます。
シュンは魔界の王子ですが、今の戦いのために魔力のすべてを指輪に封じ込めて「ひずみ」に捧げてしまったので、蘭世を救うための魔力がありません。
絶望に暮れるシュンを叱咤激励するのが、亜論でした。
「魔力だけがすべてじゃねえだろ」という亜論の説得力は、実は魔界人であることを知る前は人間だったからこそのものです。
また、蘭世に対する意識も、当初の彼女から元彼女、そして大切な友人であり仲間というものに変化しています。
そのため、シュンに対しても「大切な存在を守るために諦めるな」という想いが強く伝わっていたのだと思います。
亜論に諭されて我に返ったシュンは、人間界でライフセイバーのアルバイトで習っていた人工呼吸とマッサージを蘭世に施します。
この流れも、シュンが人間界での生活で身に着けた力として活かされているのがよかったです。
その時のシュンの「俺には蘭世が必要なんだ」という涙ながらの叫びと同時に、ついに「ひずみ」がふさがり、蘭世も蘇生します。
なかなか素直になれず、自分に対しても卑屈になりがちだったシュンですが、一番の無償の愛の力を持っていたのはシュンも同じであり、蘭世の生命の危機で、それに覚醒したのではないでしょうか。
三つの世界は救われ、魔界の王様のお約束通りに、蘭世とシュンは人間界で結婚式を挙げます。
これまでのキャラクターたちが人間界に集結し、蘭世とシュンを祝福するシーン、そして蘭世のウエディングドレス姿に、読者はときめきました。
「人間と魔界人が恋をすると、結ばれるのだろうか」というストーリーの謎は、この最終回で大きくその答えを出してくれました。
世界や種族を超えて分かり合える描写は、池野先生ならではですが、私たちにとって日常でも世界レベルでも大切にシェアしたいと思える世界観であると言えます。
大満足の最終回でした。