ツタンカーメン、最終話 完結3巻 感想
※ネタバレ注意です※
歴史上に実在したのかどうかが、まだ立証されていない状態でのツタンカーメンという少年王の墓の発掘が、かなり手詰まりになってきたハワードやカーナヴォン卿たちであります。
何度も何度も墓の場所についてハワードは自分の能う限りの、創造力や今までの経験を生かして皆を説得する姿が痛ましくもあります。
さんざん、これと思われた場所は発掘し終えた感があるので、カーナヴォン夫妻の気持ちの薄さや、半ば失望している様は、ハワードにとって大変酷なモノです。
ただ、一人カーナヴォン卿の娘イーブリンだけは彼をひたすら信じようとしています。姿、表情がとてもけなげです。
父親であるカーナヴォン卿を必死で説得しているのはハワード以外では彼女だけです。
しかし、ハワードの考古学に対する感性は非常に鋭いものがあります。
最早発掘済みであったラムセス6世の墓に付随した作業小屋のあとに執着したのは、運命が彼に味方したのでしょう。
ツタンカーメン王が彼に最後に表舞台に出してくれとささやいたのに違いありません。
気の遠くなる発掘作業を何年もかけて何も結果は出なかったのです。
やはり、幻の王とされていたツタンカーメンは切実な願いをハワードに託したのでしょう。しかし、現実は容赦がないです。
カーナヴォン卿は自ら、この発掘の権利を放棄しようとします。
また、イギリスに飛んで説得をするハワード。何が彼をそこまでさせるのか分かりません。
ツタンカーメン王の存在というのは、それほどまで神秘的であり、魅入られるものがあるのでしょう。
読んでいるこちらにもワクワク感やひやひやする感情が何度もこみ上げてきます。
一方で、ハワードはカーナヴォン卿の娘イーブリンにも愛情をいだいていきます。それは、彼女も十分理解しています。
身分がまるで違う二人の運命は交差することはありません。彼女は別の男性と結婚してしまいます。
後年的になりますがハワードの経済支援のためでもあります。
ツタンカーメン王の存在が、数千年後の人々の運命まで変えていくのは何だか皮肉です。そういう愛し方もあるのでしょう。
そして皆からの支援の下、ついにハワードは墓らしき入口を探し当てます。
王家の紋章が封印として漆喰の壁にハッキリと浮き上がっています。胸は高鳴ります。
墓への通路を掘り進み、部屋らしきものを覗いたとき、確かに埋葬物が光りました。
本物のツタンカーメンの王墓です。数千年前の空気が現代に一気にタイムスリップした一瞬です。
どんな気持ちでハワードはその場に立っていたのでしょう。
早速、全世界から高名な学者たちが押し寄せてきます。
素晴らしい埋葬品の数々に、皆言葉はありません。ただ、涙が流れるばかりです。時の膨大な流れは美しくもあります。
まだ、王の眠る場所にはハワードたちは到達していないのです。また、慎重な作業が始まります。
そして、ついに彼らは王の眠る厨子を探し当てます。黄金の光輝く厨子です。
しかし、エジプト考古学局や数々の利権争いが彼らの上に大きくのしかかってきます。
ハワードやカーナヴォン卿たちのジレンマは最高潮に達します。それも原因でしょう、卿は亡くなります。
世界的な発掘ですべての人を幸せにするニュースであるはずなのに、舞台裏ではこんなに不幸なことが何度もあったのです。
彼等の人生や享受するべき幸福を引き換えに、ツタンカーメン王は表舞台でもう一度姿を現わせたのでしょう。
一時中断しかかった、王墓の最後の発掘作業が、卿の娘イーブリンによってもう一度、実行されました。
ついにあの黄金のマスクで覆われたツタンカーメン王、その人が現代によみがえりました。
私たちは得てして偉大な功績の陽の部分しか知ることはできないですが、その奥や裏では何と大きな犠牲がを支払われているのか、時折は心を馳せたいと考えます。
この偉大な発掘の陰にハワードとイーブリンとの純愛があったことは、あまり知られてはいませんが、この二人の想いが歴史の大きな波にかき消されていくのは切ないものがあります。