妖狐×僕SS、最終話 完結11巻 感想
※ネタバレ注意です※
物語のクライマックスを一話前で終えての最終話。沢山のことを乗り越えて、沢山の人の思いを背負った彼らの後日談。
序盤と同じようにのんびりと流れる時間の中で、今までとは何もかもが違う一回り成長した彼らの姿に心を打たれます。
渡狸の葛藤とそれに寄り添うカルタの包容力に、彼らはきっとずっと二人で寄り添いながら、誰よりも優しく強くあってくれるのだろうという安心感を得ると同時に、優しさ故に抱え込むものの大きさと重さを想像するととても苦しく、それでもそんな重さを真っ向から受け止めようとする彼らの切なくも力強い姿に勇気をもらいました。
反ノ塚と野ばらのいつも通り軽快なやりとりには思わず笑顔がこぼれます。
けれどいつも通りであるからこそ、その中にある変化や決意に強く心を動かされました。
自分にとって大切なものを見つけた反ノ塚がなんだかとっても大人びて見え、その反ノ塚と並ぶと完璧な大人をしているはずの野ばらが少し幼く可愛らしく見える。きっと今後も二人で支え合って、良いパートナーになるのだろうと予感させてくれました。
カップル成立となるキャラが多い中である意味取り残された残夏と蜻蛉は、予想外の仲間クロエを交えていつものギャグパートのノリに一気に塗り替えて行きます。
全編通して背負ってきた沢山の荷物をようやく下ろして全てに満足したような残夏と、それだけでは満足させてやらないとばかりに乱入してくる貪欲で傍若無人で何処までも真っ直ぐな蜻蛉。
彼らならきっと運命なんてねじ伏せて、沢山の人を巻き込んだ明るい未来を掴んでくれると強く思える一幕でした。
そして満を持して登場の凛々蝶と双熾。一度は幸せな恋人同士になった彼らが再びお互いも自分自身も尊重しあえる優しい恋人関係に戻ることが叶ったことに多幸感を得るのと同時に、今までの彼らが戻ることは二度とならないのだという事実を噛みしめました。
あの頃には戻れない。けれど、今だからこそ築ける関係性を今までのどの彼らにも誇れるようなより良いものにしようという凛々蝶の決心と、過去の彼らを覚えていない双熾の初々しくも幸せに満ちた言動には、むず痒くもあたたかい気持ちでいっぱいにさせられました。
何の変哲も無い日常へと戻った彼らの言葉では足りない様々な思いを漫画ならではの美しさで魅せられ、作品によってはおまけのように流されてしまいそうな"後日談"を、じっくりアルバムをめくるように、日記を綴る様に味わい、彼らの明るい未来に思いを馳せながらそっと本を閉じる……、と思いきやそうは行かないのが妖狐×僕SSの憎いところ。
エピローグとして、全員が妖館に集い、新キャラまで登場するラストが待ち構えていました。
もう完全にいつも通りの賑やかな妖館で、心躍る新しい日々の幕開け。細々としたところに彼らの成長は見られるものの、懐かしい気持ちと明るい気持ちが一気に溢れます。
そして最後を締めくくるのは、存在ごと消えてしまった"if"の彼らの幸せいっぱいな後ろ姿と、今ここにいる彼らの幸せな未来。きっと大丈夫、を、絶対大丈夫、に変えてくれる幸せに満ちた光景。
過去も今も未来も、長い長い時間を生きる先祖返りたちの魂の幸せな未来を、終わりを確信して、笑顔で集合写真を撮りながら本を閉じる。そんなラストでした。
どのページもどのコマも、漫画だからこその余韻と感情を揺さぶられる絵で紡がれていて、劇的な展開は一切無いのにも関わらず物語の世界へ引き込まれ、様々な感情の波に百面相してしまう最終話でした。
キャラクターそれぞれの視点が丁寧に描かれているので、読み返す度に新たな発見があったり、今までそれ程興味の無かったキャラクターが突然誰よりも愛おしく思えたり。
実際のページ数以上のボリューム感で、何度でも、長く楽しみ続けられる最終話です。