エースをねらえ!、最終話 文庫 完結10巻 感想
※ネタバレ注意です※
エースをねらえ！文庫版全１０巻、とても１０巻とは思えない壮大な物語でした。その最終話について、書いてみたいと思います。
このエースのねらえ！の最終話には、実に、登場人物すべて・・・と言っていいほどの、作中に出演した主要人物の殆どが物凄い成長を遂げ、それを堪能できる内容になっています。
元々、この主要人物達はみんな、ストーリーが始まった高校生の時点から素晴らしい人格を持っているのですが、そのそれぞれが最終話にさらなる、驚くべき成長を遂げるのです。
一見、この漫画は岡ひろみという少女が、テニスを通して成長を遂げていく、周囲の人物、コーチ、尊敬する先輩たちによってテニスプレーヤーとして成功していく、彼女の成長物語のように思うのですが、最終話まで読んで思った、感じたのは、岡ひろみ自身の成長よりも、周囲の成長の、そのもの凄さでした。
勿論、岡ひろみもテニスだけでなく、プレーヤーとして、人間としての成長も遂げているものの、お蝶夫人、加賀のお蘭、藤堂さん、尾崎さんという周囲の大先輩の成長の方が強く印象に残りました。今、大人になって読み返してみて、余計にそう感じます。この漫画は子供が読んですべてを深く理解するには、難しかったのかな・・・とも思いました。
この漫画で岡ひろみという少女を生んだのは大先輩のお蝶夫人こと竜崎麗香、育てた人物は宗方コーチ、影になり日向になり支えたのは藤堂さん。この３人の人物が大きく岡ひろみに関わっているのですが、最終話の時点では、宗方コーチは亡くなっており、代わりに彼の親友である桂コーチが後を引き継いでいます。
最終話。日本からたった一人、由緒あるウィンブルドン選手権へ向け、海外への武者修行をする選手を選出し、庭球協会がバックアップする・・・というクライマックスを迎えます。ひろみはそれまで、ずっと前を歩いていた大先輩である、お蝶夫人と加賀のお蘭こと緑川蘭子（宗方コーチの実妹）と三つ巴で戦うという局面を迎えます。
お蝶夫人とお蘭は、もう、自分たちはひろみには敵わないのだと知りつつ、全力で骨のきしむような練習をします。それは、ひろみに精一杯強くなった自分たちを正々堂々と負かした上で、選ばれて行って欲しいという、とてつもなく大きな愛が背景にあったのでした。
しかし、その試合を控えた３日前にお蝶夫人が肉離れを起こしてしまい、入院し、棄権。ひろみはお蘭とだけ戦う事になる。
この瞬間、私は何とも言えない、感慨深いものを感じました。
この漫画で、私が一番好きなキャラクターは最初から最後までずっとお蝶夫人でした。しかし、この漫画の多くのファンは、みんなひろみ同様、お蝶夫人に憧れていたのではないか？主人公のひろみより、実はお蝶夫人の方が人気があったのではないか？と未だに思います。
正直、お蝶夫人が、ひろみに負けるところを私は見たくなかったのです。お蝶夫人とひろみを最後に戦わせなかった、作者の山本鈴美香さんの意図がどうだったのかは分かりませんが、私はこの結末は物凄く良かったと思いました。
宗方コーチの実妹である加賀のお蘭との戦いは反対に凄く良くて、お蘭が最後に宗方コーチの墓前に、ひろみと対決して負けた事の報告も清々しいものでした。
このすべてが、とても最高の、とても美しいエンディングであったと思います。
まだまだこれから選手として上り詰める事ができるであろう時期に、藤堂さんは岡ひろみのサポートに徹する事も決意します。
周囲の、宗方コーチだけではなく、素晴らしい大先輩達の、捨て身の、大きな愛によって、彼らの成長の土台の上で、ひろみは育てられてきたのです。彼らの成長無くして、ひろみの成長は有りえないものだったのです。
ですから、ひろみの成長物語というよりも、周囲のみんなの成長物語であったのだと、私は特にこの最終話でこの物語の全容、作者が伝えたかった事を明確に感じられたような気がしました。
古い漫画ですが、今だ時間を越えて色褪せない、大人になって読んでも素晴らしい作品だと思います。
