隣の男はよく食べる｜38話【無料】ネタバレ

◇１巻 まるまる 無料◇ほぼ毎日 更新◇

2022年10月27日まで

『ポキリと折れた心は今』

『見えない糸で 無理やり繋ぎ合わせている』

（ゴミ…）

（随分 溜まったな…）

（ゴミみたいな人間が ゴミに囲まれて）

（生きている意味 あんのかな…）

（もう…いっそ このまま死んでも…）

フッ

「だっ」

「だめだ」

「この間 雑誌で見た…」

「大家さんに迷惑かけるとこだった　　早く片づけよ…」

「あっ」

「切れてる…」

「買いに行かなきゃ…」

〈コンコン〉

「蒼井さーん」

ビクッ

「蒼井さん いる――？　　郵便です」

「郵便…」

ガチャ…

「…はい」

「現金書留です」

「サインをお願いします」

「どうもー」

「あれ？　　蒼井君」

ビクッ

「雨続きで 気が滅入っちゃうね」

「…大家さん」

「いやあ 忘れ物しちゃってね」

「そうだ　　来週またうちの会社の書類整理を手伝ってもらえるかい？」

「日払いで いつもみたいに家でやってもらっていいから」

「あの… ありがとうございます お願いします…」

「迷惑かけて すみません」

「蒼井君はいつも「迷惑をかける」って言うね　　でも僕もそこから家賃を払ってもらってるわけだしね」

「それに実際 人手が足りなくて助かってるからね」

「遠慮することないんだよ」

『ここで一人で暮らし始めて７年』

『俺はずっと ここに引きこもっている』

『１６歳の時に高校を辞めた』

『親に迷惑をかけるのが嫌で ２０歳の時に家を出た』

『覚悟をもって 外に飛び出したつもりでいたけれど　　結局はこうなった』

（あの大家さんに会わなかったら　　今頃 野垂れ死んでたかもしれない…）

（でも）

（世の中的には そっちの方がよかったよな…）

『母親から年に数度 送られてくる現金書留は』

『一度も封を開けたことがない』

（心配しないで って伝えればいいだけなのに…）

『それすらできない―――…』

『だっ』

『だめだ…』

『いつも以上に沈んでいる』

「ぜったい この部屋の状態がよくないんだよな…」

「元の状態に戻そう」

『無理やり糸で繋ぎとめた心は』

『まだ壊れてはいない』

『沈んでは浮かぶ』

『それを繰り返す日々』

『「いつかは この世界から抜け出せる」』

『遠い過去に描いた思いは まだ心のどこかに存在している』

『心が糸で繋がっている限り　それはきっと存在し続ける』

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