彼方のアストラ、最終話 完結5巻 感想
※ネタバレ注意です※
『彼方のアストラ」の最終話は、カナタたちが無事にアストラに帰還したあとの様子が描かれています。
前話までの、過酷で試練続きの旅の雰囲気から一転して、明るい記者会見から始まります。
カナタは相変わらず、事態をあまり深刻に受けとめない発言だし、シャルスもイケメンっぷりを全面に出してくるし、女子達は食糧がないのに太ったと言うなど、大変さや過酷さを感じさせない記者会見に思わず笑ってしまいます。
その後もメンバーたちのミーハーっぷりは続きます。
それでも、全員が違法クローンであること、またアストラの歴史がじつは世界レベルで隠蔽、書き換えされていたという事実が、ただ明るいだけ、軽いだけという雰囲気にさせない要素として横たわっています。
この物語のすごいところは、ここだと思っています。
単純なSFファンタジーの冒険物語でありながら、今の私たちの世界、生活そのものでもあると思わせる設定です。
コミカルで、だいたいはバカなやりとりをしながら、それでいて一貫してその要素が含まれているということです。
宇宙という舞台を未来に例え、サバイバルという設定を人生に例え、読者の人生に重ねあわせて見ることが出来るようなストーリーになっています。
それは、カナタたち一人ひとりの人生どれを取っても、自分にも起りうると思えるものだからです。
・カナタが陸上競技のアスリートであり、サバイバル経験あり
・アリエスは記憶能力に長け、記録者となる。
・キトリーは医療知識が豊富。
・ザックは頭脳明晰、科学者を目指す。
・ルカは議員の子で、絵がうまい。
・シャルスは生物に詳しく、料理も上手。
・ユンファが、歌がうまいが、引きこもり。
・ウルガーは攻撃的で狙撃に長ける。
それにフニという小さな子が同行。
このメンバーを見た時に、性格、職業、人種(肌や髪の色)どれをとってもバランスが素晴らしく、まんべんなく網羅されているなと思いました。
自分に近い性格、自分に似た環境、自分の仕事に近い職業など、どこかに接点があるからです。
だからこそ、誰かに感情移入が出来ます。
それはカナタたちをなぞの球体に吸い込ませ、宇宙に放りだした犯人だったシャルスに対しても同じです。
彼は当時洗脳されていたということから罪に問われず、その後、ヴィクシアの王となります。
この洗脳についても、現在の精神的な病の一つとして捉えれば、シャルスの辿った人生もまた、ありえないことではないのです。
歌手のユンファは、自分を表現出来ず、心が開けませんでした。それは、たとえば引きこもりや不登校などで悩んでいる人たちにも通じるのではないでしょうか。
彼女が「アストラ号の冒険」を歌う前に語りかけた言葉に詰まっていると思います。ぶつかりあい、疑い、ケンカもしたメンバーと、ともに試練を乗りこえ、心を開いたことで、彼女は今までの自分から変わることが出来ました。
そして、もしかしたら私たちが知らないだけで、全世界に隠されていることがあるのかもしれない。
発表されていないだけで、クローンが存在しているのかもしれない。
自分がいつその渦中に投げ込まれるのか、また今までのような生活が出来なくなる試練に見舞われるか、それはカナタたちがそうであったように誰にも予知できないし、誰もがその可能性を持っていると思うのです。
最終話では、ついにアリエスがカナタと結婚する!というハッピーなニュースも描かれています。
物語の当初から、一貫してアリエスを助け、励ましてきたカナタ。彼の明るさと行動力に、そして仲間を思う気持ちにこんなリーダーがいたらいいだろうなと何度も思いました。
だからこそ、最後に再び仲間とともに宇宙へ旅立つ彼の姿が、カナタらしいなと思え、いつまでも応援したくなるのです。
全体を通して、若者だけでなく多くの人の応援歌であることを実感できる大団円の最終話です。