絵が可愛くてとても好きです。可愛くて雰囲気が柔らかく繊細でいて力強い。そんな印象を受けます。
キャラクターも主人公以下それぞれの個性が立っていて、とても魅力的です。そして何より基本ギャグよりな面白さ全開の場面が多い中に、シリアスな場面が、逆にシリアスが続く展開の中にずっこけるような場面が、それぞれ交差するように自然に訪れるそのタイミングが、絶妙です。
この漫画は最初敵対していた主人公の女の子「紗南」と、主人公の男の子「秋人」の距離が次第に近づいて、最後にはお互いがかけがえのない存在になっていくのが大筋であるのですが、その中で友だち関係や親子関係、恋人関係などの人間関係がちょっと捩れたりして、様々な誤解や葛藤や混乱や愛憎や成長やらが、織り交ぜられてるなと思ったのですけれど、その中身が結構ハードで、いじめやら学級崩壊やら捨て子やら傷害事件やら……で、こどもから見たこどもの世界や大人の世界のことが描いてあるというよりは、大人の世界そのものだなと思わせられました。
子どもを使って、子どもの世界を使って作者は、現代社会の色々な問題を浮き彫りにして、それについて考えようと読者に訴え語り掛けてきているのだと感じました。
それは第一巻の冒頭から賑やかに始まります。最後の十巻まで、なんていうか絵やストーリーの裏にあるであろう作者のエネルギーというか、そういうものの、ペースが全く落ちません。
かくしてちょっとだけ読もうとしたのが瞬く間に作者の世界に引きずり込まれていってしまうのです。
紗南と秋人は互いに、遠慮なく全力でぶつかっていきます。キャラクター全体が大体そうですが、特に主人公の二人はそうです。それは作者が全力でこの作品を描いているだろうと想像できる部分でもあります。その作者の熱量が読者に乗り移り、読者に共感を誘うのかな、と思いました。
そして少女漫画としてのお約束的なもの、初恋のドキドキ感やら、恋のすれ違いのもどかしさ、三角関係のハラハラ感など、王道は全部抑えているところも凄いと思い、作者は頭の回転が早い人なんだなと感じました。
私が一番好きなのは、と言えないほど沢山好きなところはあるのですが、いくつか挙げるとすると、
紗南が秋人の亡くなった母親になりきって演技をするところと、熱を出した秋人が紗南のドラマを見て母親に想いを馳せているかのようなところ。紗南を紗南の自宅から秋人が自転車で連れ出すシーン。大切なことを言おうとしていたのに諦めたり、言えなかったりというようなシーンは各キャラクターに結構頻繁に出てきて、それがもどかしく次にどうなるんだろうと、これで大丈夫なのだろうかと、期待や不安が高まりました。
ゾクゾクしたところは、秋人が昔の暴力的な少年に戻りつつあったところと、紗南の捨て子の生い立ちが出てくるシーン、紗南が笑えない病気になって秋人と二人でこっそり旅行に出かける中で、秋人が泣いて紗南に、紗南が壊れたら自分の方が駄目になると訴え、ようやく紗南が笑えるようになったところです。一気に読んでしまったのは、最後の方の、秋人が同級生に腕を刺されながら出血多量でも必死に紗南のところへ戻ってくるところです。
漫画本編以外にも、もうひとつ、お楽しみがありました。単行本のページをめくっていくと出てくる作者のお喋りコーナーです。
キャラクターを作る上での秘話や、妹さんの話、テレビで放送されていた「こどものおもちゃ」のアニメの話、そしてこれからの展開にまで話は及びます。
これを見ているだけでも、作者の小花美穂さんがとても飾らない人間味溢れる方なんだな、ということがわかって嬉しくなりました。
私はこの作品に出会えてとても良かったと思っています。