「女王の花」は歴史マンガで、古代の戦乱期の亜国の姫である亜姫と幼馴染で奴隷の薄星との身分違いの熱烈なラブロマンスです。
身分違いの恋なだけに結ばれる可能性が皆無に等しく、亜姫と薄星はお互い相手のことを考え、自分の恋情に何度も蓋をして諦めようと苦悩します。幼馴染なだけに相手を見る目は常に確かで揺るぎないものがあります。
ずっと見つめ続けてきた相手だからこそ、大切で命すらかけられるという気持ちの強さは何度も示され、心にぐっとくるものがあります。
一番印象に残る場面は、亜姫を守り死んだ薄星からの最期の手紙を亜姫が受け取って読むところです。
奴隷だった薄星が文字を書けたことを疑って最初は受け取ろうとしなかった亜姫が薄星の綴った拙い文字と文を読む場面には、人の賢さが学問や教養だけではないことがちりばめられています。
薄星は自分より何倍も頭の良い亜姫に向かって語りかけます。
「天は高く、花は赤い」という訳をどんな賢人でさえ知りえないことを。
だから、「再見(またね)」と告げるのです。
この世の理を超えた果てにある想いの強さを叫びこともなく、嘆くこともなく、淡々と真摯に簡素な文章で伝えていくのは胸が詰まる想いがします。色々な迷いを捨ててしまった人だけが辿り着ける静かな境地なのでしょうか。
薄星が望んだのは、只一つ、いつか会えるという約束を交わすことでした。
奇跡をおそらく信じないだろう恋人に向かい「天は高く、花は赤いという訳を誰も知ってはいない」と語りかけ、「再見(またね)」と約束を交わしてお互い奇跡を待ち続けることを望んだのです。
亜姫は、この手紙を読んで薄星の死のショックから己を取り戻し、いつか、薄星が迎えにくることを信じて自分の使命(王となり亜国の再建)を果たそうとします。
亜姫が亜国の褒め称えられる女王として立っていかれたのは、薄星の揺るぎなき想いに支えられていたからでしょう。
生と死が隣合わせで、いつ別れが来るかもしれない過酷な運命の中で咲いて恋だからこそ、ひたむきで真っすぐで力強いと感じられます。
二人の賢明も際立っています。
その賢明さの源は常に相手を見て相手のことを考え、身を捧げる想いを持っていることです。
薄星が亜姫を守りたいと願った果てに見出した叡智の凄まじさは偉人賢人に劣らないものだと思います。
だからこそ、亜国の偉大な女王として君臨した亜姫と釣り合いが取れ、最後は奇跡が起き、風のように二人して消えていったのでしょう。
二人が人として己に課された使命を果たした後で起こる奇跡だからこそ、さらに長い苦悩の年月を慮り、熱く胸を打つものがあります。