本作品のはじめは、落ちこぼれの女子高生・相原琴子が、高校に入学して、容姿端麗・頭脳明晰でパーフェクトヒューマン入江直樹に一目ぼれするところから始まります。琴子は、勇気をふりしぼって入江にラブレターを渡しますが、ことごとく振られます。琴子はそれでもあきらめず、思い続けてはアタックしますが、入江は見向きもしません。そんな中、琴子の父と、入江の父が旧友だった縁があり、琴子の家が火事になってしまったことを機に一家総出で転がり込み、一つ屋根の下で暮らす生活が始まります。入江が琴子を冷たくあしらうのは、変わらないのですが、それでも懲りずに入江を好きでいつづけアタックしつづける琴子の姿に、ほんの少しずつ気持ちが動いていきます。高校生~大学生時代はこのような形で、1-2話でいったんのストーリーにオチがあるような構成になっていてとても読みやすいです。なおかつ、高校卒業や大学入学やその他行事ごと、四季折々絵が描かれているので、琴子と入江の成長を見守っている気持ちで読むことができます。自分だったら、好きな人がいてもこんなにパワフルになれない!という究極のポジティブさが琴子にはあって、少女漫画で別世界とは理解しつつ本当に尊敬してしまいます。
その後、大学生活も波瀾万丈に過ぎていき、ついに琴子の思いが入江に届いて両想い、お付き合いというよりも、速攻入籍に至ります。結婚後も、入江のクールさは変わらず琴子にはそっけないのですが、芯にある愛情がふとしたところに現れていてとてもきゅんとします。医者になる夢があった入江は順調に医学部へ編入しますが、琴子も「入江君の力になりたいたい」というただその気持ちから看護師を目指すようになります。苦手な勉強やつらい実習に耐えながらも、なんとか看護師免許を取得。はれて、看護師になったので、夢にまでみた同じ病院での勤務と思いきや、研修医だった入江は遠方の病院に赴任してしまい、プチ遠距離生活があったり、やっと帰ってきて一緒に働けてもイケメンな旦那様を狙う看護師が多く、琴子も気が抜けません。このような形で第2部として、ストーリーが進んでいきます。ここまでも、一貫して決して入江からデレデレするようなことは全くなく、かといって琴子が好き好きオーラを緩めることはありません。夫婦でありながらも、そこに”恋愛”がきちんと存在し、新鮮さが描かれているのもこの作品の魅力です。入江もただ冷たいだけでなく、琴子を信じ、大切にしている感じが描かれています。こんなにかっこいい人が本当にいればいいのに!と何度思ったかわかりませんし、私以外の読者様もそう思ったことでしょう。
結論、この物語は完結しません。作者の多田かおるさんが急逝されたためです。物語は、琴子が妊娠したかも?!という最も盛り上がるであろう続きを見られないまま、連載終了となってしまいました。とても残念に思いますが、愛読者としてはその後の二人の物語は、幸せなんだろうなとこれまでのストーリーで十分に想像・妄想できるものなので、作者さんが遺してくださった別の楽しみ方のように思います。こんなに奥深い作品はなかなか出会えないと、今でも思います。このように未完であるからこそ、ネット上でも読者同士であらゆるエンドを考えて話題になってるのを見たことがありますし、台湾版・韓国版への海外進出、アニメ化・映画化へと形を変えてアナザーストーリーも描かれたりしています。いろいろな姿に変わっても、イタズラなKissが世の中に存在してることをうれしく思います。琴子のようにパワフルすぎる恋愛脳の女の子や、入江のようにクールで完璧な男の子はなかなか現実にはいませんが、作者さんが描いた二人のストーリーは、私の中で恋愛教本のようなものです。