円舞曲は白いドレスで、最終話 完結4巻 感想
※ネタバレ注意です※
昭和初期の太平洋戦争前、洋服屋の娘の湖都と、インド人のサジットとの運命的な出会いから始まったロマンチックな恋愛もので、最終話では2人が駆け落ちします。
しかし、最終話で最も印象に残っているシーンは、将臣の別れの言葉です。将臣はこの漫画における恋敵(婚約者、のちに結婚します)の役ですが、非常に人気のあったキャラクターです。湖都の幼い頃のあこがれの従兄弟で、冷徹な美形で、湖都を強く想っています。どちらかといえばこの将臣のようなキャラクターが相手役で、サジットのような甘い言葉、情熱的な態度の役が恋敵というパターンのほうが少女漫画では多いのではないかと思いますが、この漫画では逆です。そのことが余計に将臣人気に結びついたのかもしれません。
さて、その別れの言葉はこうです。「さよなら…だ いとこどの きらきら輝いてる… 君こそがいつも おれのあこがれだった とても好きだった…」
この言葉のあと、将臣は湖都をサジットの乗る船へ「行け」と促すのです。
将臣は名門の男爵家の次男で、長男が家を出てしまったことから父男爵の期待を一心に受け、自分を厳しく律して生きてきた男です。その将臣にとって、自由に生き、ドレスを作るという夢に邁進し、独り立ちしていく湖都は眩しくい憧れの存在だったのだということを強く感じさせてくれる言葉です。
今まで湖都に甘い言葉をささやくこともなく、気持ちの通じていなかった将臣の本心が(もちろん読者には十分すぎるほど伝わっていたのですが)、こんなにストレートに吐露されたことに感動しました。しかも、これは二重の意味での別れの言葉でもあったのです。
将臣は白血病だということは作中でも示されているのですが、このシーンのあと、兄に気持ちを話すシーンがあります。
実は将臣はもう長くない命だと医者に宣告されていること、そのために湖都をあきらめたのだということが明かされます。自分がもっと長く普通に生きられたのであれば、湖都をあきらめなかったであろうことが感じられて涙が止まらなくなるシーンです。彼女のこの後の人生の幸せを願ってあきらめたのだという、将臣の深い愛情が感じられます。
本当に、もっと器用な人だったら、幼い頃から湖都に愛情表現をしてきていたら、もともと湖都の憧れの人だった将臣ですから、間違いなく相思相愛のカップルになれていただろうに、と思うと将臣の不器用さがまた哀しくてなりません。でも、病気が発覚したらこの将臣のことだから相思相愛になったあとでも、その後に生きる湖都のことを考えて手放してあげたのかもしれません。
さらに、最後に故郷も家族とも離れて、好きな男性と新天地に旅立っていく湖都の強い生き方も、いかにもさいとうちほの漫画らしい強い女性を描いていて、とても好感が持てます。
湖都は、手に職を持ち、夢を持った女性です。サジットはインドの貴族の息子であり、男前で行動力もあり、甘い言葉もお手の物のまさに王子様キャラクターですが、湖都は「王子様と結婚して幸せに暮らしました」というパターンの女の子ではありません。
自分の仕事が好きで、もっとドレスをうまく作りたい!という夢に邁進する姿が、現代女性にもとても共感を呼ぶキャラクターだと思います。実はこの漫画の中で、性格的に最も男前なのは湖都なのではないかと思います。
将臣がいても、「サジットが好きだ!」というきっぱりとした意志を示していますし、「どうしよう・・・どっちも好き」というようなふらふらした態度ではありません。批判されても、自分で自分の行動の責任を持つ!私の人生だ!という態度の湖都だからこそ、2人の男性にここまで愛されていることに納得もできるし、憧れるのではないかと思います。