雲上楼閣綺談、最終話 完結8巻 感想
※ネタバレ注意です※
百年という長い間、人は一人の人を変わらずに愛し続ける事は可能なのでしょうか。
三日月様は人ではなく、仙人だから、可能だったのでしょうか?
ですが、三日月様だってかすみと会えず、寂しかった筈です。
世界の為に、地の神様の元で眠りについている愛弟子であり、そして、最愛の人と離れて、平気な訳はありません。
それでも、三日月様は皆の前ではいつもと変わらずに、穏やかな表情でした。
かすみが眠りについた後、世界は変わったのだと、改めて思いました。
村人は気軽に三日月様を訪ねてくるようになり、今や仙人も人間も関係なく暮らせるようになり、あれほどまでに険悪だったギア族とも、ぎこちないながらも平和な関係が築けているんです。
ただ、やはり仙人と人間の間には、解決出来ない「時間」という壁があるのだと思いました。
女性の仙人である綺羅は、人間の男性と結婚をしましたが、いつまでも若いままの姿の仙人と違い、人間は年をとり、亡くなってしまいます。
綺羅は、夫も子供も亡くしていたのです。
どれだけ愛していても、「時間」だけはどうにもならないのだと思いました。
ですが、その証しはちゃんと残っているんです。
綺羅と男性の間には、子供が、孫が、ひ孫がいます。
これからも、その血は絶える事がないのです。
そして、三日月様同様に、もう一人、長い年月を一人の女性を愛し続けた男性がいました。
ギア族の長の弟であるイリヤです。
村を守る交換条件として、ギア族の巫女として水晶の中で眠り続けた女性を、イリヤはずっと愛していました。
そして、女性もまた、イリヤの事を思っていました。
水晶から解放された時に、イリヤは初めてその女性の名前が茉莉花だと知るのです。
名前も知らない女性を、百年という間想い続けていたというイリヤは、出番こそあまりなかったのですが、かなり注目のキャラクターです。
役目を終えたかすみは、大人の女性へと成長していました。
そして、彼女は故郷の村で、改めて両親の愛を知る事になるのです。
自分と良く似た「かすみ」という名前の少女。
彼女こそ、かすみの子孫なのです。
かすみが仙人に捧げられた事を忘れない為に、かすみの家では、最初に生まれた女の子に「かすみ」と名前をつけるのです。
今の平和は、かすみのおかげなのだと忘れない為に。
それは、人間である両親が出来る最大の愛情だったのです。
皆がかすみを忘れない為に、我が子を捧げなくてはいけなかった両親の、切ない願いだったのです。
その愛を、かすみは百年という時を過ぎて知る事になったのです。
どれだけ両親に愛されていたかを知る事が出来たかすみは、愛する人の元へ急ぎました。
三日月様の前に戻ったかすみは、以前の幼い少女ではありませんでした。
大人の、美しい女性へと成長していました。
三日月様は、かすみの前で、やっと本音を口にしました。
長生きする事に慣れている筈なのに、待ちわびて石になるかと思った。と、言った三日月様は、仙人ではなく、普通の恋をしている男性でした。
百年たっても変わらない三日月様の優しさが、かすみを支え続けたのだと思います。
三日月様が待っていてるという安心感が、一人の少々を強くしてくれたのだと思います。
百年の間に、異種間の交流が普通になった事はもちろんですが、仙人の恋愛が自由になったなった事、かすみが地の神様の元で眠っていた間に、世界は確実に変わってきたのです。
三日月様がかすみに「愛しています」と言うのですが、このたった一言に、全てが詰まっているような気がしました。
かすみと出会い、変わったのは三日月様の方だったのかもしれません。
かすみが幸せそうに三日月様の横に並び微笑む姿は、とても素敵で、とても愛おしく感じました。