残酷な神が支配する、最終話 完結17巻 感想
※ネタバレ注意です※
ジェルミが、最後の最後に穏やかな表情・余裕のある立ち振る舞いを見せたことに安心し、肩の力が抜けました。
義父・グレッグからの性的虐待、母・サンドラとの共依存関係、そしてそんな二人を自動車事故に見せかけ殺害してしまったことで、絶えず苦しみ続けてきたジェルミ。
全17巻もの長い物語の間、ジェルミのゆったりとした立ち振る舞いを見られたことは何度あったでしょうか。
少なくとも、精神的に追い詰められて震える姿、自暴自棄になって暗い目つきになった姿、心身ともに傷ついて泣いている姿を見たことの方が圧倒的に多かったと断言できます。
そんな彼をずっと見てきて、彼の苦しみのほんのひとかけらでも一緒に感じてきたからこそ、最終話での彼の年相応に余裕を持った姿に涙が出そうになりました。
とはいえ、ジェルミが犯してしまった罪は消えませんし、グレッグにされた残虐な暴力への恐怖や痛み、そしてそんなグレッグの非道な行いを知っていて止めなかったサンドラへの猜疑心は、これからもジェルミの心の中に残り続けるでしょう。
そのことを考えると辛い気持ちになりますが、これまであれほど取り乱し、苦しんでいた、虐待と裏切り・そして自分の罪の記憶をいっぺんに思い出す12月を迎えようという時に、ジェルミの口から「以前ほどにはあのことを思い出すのはつらくはないんだ」というセリフが出てきたことに心が動かされました。
時の流れと共に、ジェルミの心の傷が少しずつでもふさがってきていること、そしてジェルミ自身が成長し大人に近づいていることを感じ、最後に少しだけホッとすることができました。
ジェルミのこの目覚ましい回復には、もちろん義兄(今や恋人ともいえる)イアンの存在が大きく関与しています。
私は正直、最初はイアンのことを「なんて尊大で分からずやな男なんだ」と思っていました。
ジェルミが発したSOSを何度も取りこぼし、気を遣うような素振りでジェルミを余計に追い詰めて、ひどい男だと憤りすら覚えていました。
しかし、作中でそれら全てのことにイアン自身が気づき、深く後悔して、自ら堕ちていくばかりのジェルミに向かって、次こそは、次こそはと手を伸ばすイアンの姿を見ているうちに、イアンへの印象はどんどん好いものへと変わっていきました。
イアンが最終回で見せた、ジェルミの心にそっと寄り添うかのような穏やかでさりげない気遣いは、イアンのそうした気づきや後悔、そして絶え間ない努力の賜物なのだと分かります。
イアンの存在は、時にはジェルミが歩む道の妨げにさえなりましたが、最終的にはジェルミにとって必要不可欠な存在になったのだと思います。
最終話で最も印象に残っているのは、ジェルミの「忘れてもいいってこのごろは思えるんだ」というセリフです。
これは、自身がグレッグに性的虐待を受けていたこと、母親以上に愛していたサンドラに裏切られ続けていたこと、そして自分が犯してしまった罪、その全てに対してのセリフです。
嫌なことを繰り返し思い出し、自らの首を絞めてしまうのが人間の性ですが、そんなことをしなくても生きていけるのだとジェルミが自分で気づけたことで、どうにか普通の青年らしい生活を取り戻し、イアンや他の人たちとの良好な関係を取り戻せたのです。
苦しかった出来事をまとめて思い出してしまう12月という季節が、ここでは彼にとって良い風に作用しているのだと思います。
ジェルミの中に残った傷は決して消えるものではありませんが、わざわざ自分の傷を引っ掻き回さなくても生きていける、そして生きていればそういう風に考えられるようになるのだと感じ、彼のこのセリフは自分の人生のためにも覚えておこうと思いました。