BUTTER!!! バター、最終話 完結6巻 感想
※ネタバレ注意です※
まず、最終話で夏と端場がぎこちない雰囲気のままスタートするのがすごいです。普通の漫画だったら、問題解決とともにぎこちなさも自然に解消し、物語の締めに向かって笑顔で前向きにスタートするのが王道だと思うのですが、そうはいかないところが現実的であり、この作品の好きなところでもあります。
また、最初はどちらかというと「余裕たっぷりの夏」と「余裕がなく視野が狭い端場」という構図だったように感じられたのに、最終話では一転、「端場との関係性をうまく修復できずモヤモヤする夏」と「夏との関係性をそれほど負担に思っておらず余裕のある端場」という構図になっているのが対照的で、さらにこれまでのストーリーで「この構図になるのが自然だ」と思わされるところがすごいと感じました。ふたりの成長した部分、そしてふたりの変わらない部分どちらもあったために、最終話のぎこちなさが生まれたんだと思います。
意外だったのは、夏と早川がふたりきりで廊下で話すシーンです。このふたりの取り合わせがそもそも意外ですし、早川の言葉が少なからず夏の考え方に影響を与えたという点にも、読んでいて感嘆してしまいました。また、今まで何度となく浴びせられてきたであろう「本当はヨネコを好きなのではないか?」という質問に、顔を赤らめるという素直な感情表現を見せた早川にキュンときてしまいました。
そして、はじめて高岡・二宮抜きの1年生4人のみで迎えた舞台、新入生歓迎会。高岡・二宮ペアが挑んだような「大会出場」ではなく、「自分たちだけで挑む新入生歓迎会」を物語の集大成として扱うところに、さわやかな感動を覚えました。新入生歓迎会直前の舞台裏で、夏と端場のぎこちない雰囲気がやや力業で解消されるところも、リアルな青春を感じられ読んでいてスッキリしました。最終話にして、第1話の夏の「バターになっちゃいます」発言の真意がかわいらしく明かされるところにも、なんだかホッとさせられます。
最終話の要である新入生歓迎会では、夏が舞台に上がるシーンでは緊張が伝わってきて、表情も硬かったので、つい苦い思い出でもある学園祭のことが頭をよぎってしまいましたが、舞台裏で再度絆を確かめ合った仲間たちとともに踊っているうち、全員の表情がキラキラしてきて、その表情の変化とともに歓声も実際に聞こえてくるように感じられ、見入ってしまいました。入部当初一番乗り気ではなかった端場の、あまりにも明るく、あまりにも刹那的なモノローグには鳥肌が立つ思いでした。苦しいことや悲しいこと、うまくいかなかったことも色々あったけれど、すべては今この瞬間に集約されている、これが青春だ、と強く感じました。
新入生歓迎会のシーンは息をのむように読んでいましたが、タンス終了後の端場の涙を見て、私も一緒に緊張が解けてしまい涙があふれました。端場の泣き顔を綺麗に表現しないところもあまりにもうまいです。物語全編を通して言えることですが、かっこいい人をかっこいいだけの存在として書かないこと、人間誰しもが持ついい点も悪い点も等しく描かれているからこそ、すべてのキャラクターの魅力がこんなにも際立っているのだと感じました。
夏をはじめとする現役部員4人の中には、ソシアルダンスを踊ること自体を目的として入部した人は一人もいませんでした。しかし、彼女ら4人のソシアルダンスを見て、ソシアルダンス部への入部を決意した新入生はきっといると思います。そして、ソシアルダンスや部員をこんなにも大切に思えるようになった4人はもう大丈夫だ、と感じました。4人の、最終回のその先が見てみたい、と前向きな気持ちで思わせてくれる最終回でした。