Swan -白鳥-、最終話 完結14巻 感想
※ネタバレ注意です※
主人公である真澄はバレリーナの母真知子が自分の父と結ばれる前の出来事を知り衝撃を受けるのでした。
しかしセルゲイエフからセルゲイエフ自身の思いを聞き、徐々に平静を取り戻す真澄。
成長した真澄はやっと母とラブロフスキーに起こった出来事を理解し、セルゲイエフと師弟とも、恋人とも違う絆を創り上げることができたのだと思います。
そこで舞うふたりはなんのわだかまりもなく、清々しく、踊り終えた後はそれぞれが待つ人のもと帰って行くのです。
やはりリリアナにはセルゲイエフが必要であり、真澄は沢山の時間を経てレオンと真っ直ぐ向き合えるところに、辿り着いたのです。
時間がかからないと届かない場所、人生にはあるんだよなぁという気持ちになりました。
長いストーリーの中での真澄とリリアナのライバル関係にも、心打たれます。
互いが互いを羨ましいと思っていた事が明かされます。ふたりの成長も互いの存在があったこそで、そんなライバルがいたふたりが、わたしは羨ましいです。
もしかしたらリリアナの命はあと僅かもしれない。
それでも踊り続けるのは、バレエに対する愛、真澄の存在があるからなのだと思うと涙してしまいます。
命をかけたリリアナの踊りは常に至高の世界のものであった。リリアナの体の事を知っていて支え続けてきたセルゲイエフの心の深さに、また感動してしまいました。
そして葵。最後まで真澄を支え、共に踊って行きたいと思っていたはず。
真澄を見守ってきた葵の引き際が美しい。いつも真澄を見つめていた葵ですが、真澄は振り返る事はなかった。
そしてとうとう真澄をレオンに託す。
深い愛がなければ、愛する人の幸せを選ぶ事はできないでしょう。
レオンに「オレはここまでだ」と電話で呟く葵は潔い、美しい。
ここふたりにも厚い友情と信頼があるとわかる素敵なシーンです。
真澄は一途に踊り続けてきました。
荒削りだった真澄の踊りに何か光るものがあることを気付いた人はセルゲイエフ以外にも小夜子、飛翔、葵、さらにはマーゴットフォンティーン。
そんな可能性を秘めた真澄でも順風満帆ではありませんでした。
極度の精神状態の中で耳が聞こえなくなるアクシデントがありました。
また、尊敬する人を乗り越えて進まなくてはいけない道でした。
さらには愛する人との出会い、永遠の別れ、踊れなくなるほどの絶望や喪失感など、真澄の道は険しかったのです。
だからこそ、みつけた真澄の踊りがある。その一筋の光を見逃さないレオンはさすがだと思いました。
レオンもバレエと共に生きてきた。
ふたりはこれからもバレエとともに生きていく。コンクールで出逢い、真澄の心をかき乱したレオンが人生のパートナーになるなんて、真澄は予想だにしなかったはずです。
バレエってこんなに綱渡りみたいに、どうなっていくのかわからないものなんだろうか。
ここまで全てをかけて、追い続けても手に入るかわからないもののために自分を捧げるのかと読みながら何度も思いましたが、バレエに限らず、人生そのものがそうなのかもしれませんね。
そしてその人の人生が踊りうつるからこそ、究極の美しさがあるのかもしれませんね。
ふたりの最終話のパドドゥは圧巻です。
有吉先生の書かれる踊る姿の美しさはところどころで伝わりますが、何というか、ふたりの踊りの調和が素晴らしい。
見事に互いを理解し尊重し合えた踊りとなり、絵に表れています。
思っていたとおりの結末でよかった。
最終話で絡まっていた運命の糸がとけて、それぞれが新たな道へふさわしいパートナーと歩きだす姿が、感動的でした。
未来のストーリーを勝手に想像してしまう様な余韻があり、心地よい結末でした。
最後まで読み終えた方は必ずバレエが見たくなるはずです。
バレエをしてみたかったと思う方も多いと思います。
そして何度も読み返したくなる秀逸の作品だと思います。