なまいきざかり。　番外編 / 最新作

◇１巻 まるまる 無料◇ほぼ毎日 更新◇

「奥様　　こないだのトマトが鈴なりになったよ」

「本当！？　　あとで見に行きます」

「今日も自信作のアップルパイですよぉ！　　お二人分用意しておきますね！」

「ありがとう！　　楽しみだわ！」

「ホゥ･･」

「おかえりなさいませ！」

「ただいま　　マリー」

『わたしは』

『姉に求婚(プロポーズ)した人の　　花嫁となる』

シャデラン男爵家の娘は二人いる

明るく社交的 ふわふわ金髪の可憐なお姫様　　お願いはなんでも叶えてもらえる

姉のアナスタジア

男の子みたいに長身で 一人で本ばかり読んでる　　両親に文句一つ言えない

ずたぼろの格好をした 妹のマリー

美しく誰からも愛される姉は　　婚約者のもとへ嫁ぐ道中 事故死した

「マリー　　お前が姉の代わりに伯爵家に嫁ぐんだ」

「無理よ！　　わたしがお姉様の代わりだなんて…！」

「いいかマリー」

「無理じゃない やれ　　アナスタジアを失い 傷心中の伯爵につけ込むんだ」

「一夜の慰みでも縁が出来れば しめたもの」

『一夜の慰み―――』

「そんな おっ お父様 わたし…」

「困窮した我が家を救うためだ　　醜いマリー」

『どうして』

（こんなことになったのだろう）

『きっかけは――そう』

『わたしの１８歳のバースデーパーティ』

「まあ素敵！」

「なんて綺麗なドレスなの　　お父様お母様 ありがとうございます！」

（お姉様… お姫様みたい…）

『それに比べて…』

（私は地味な灰色のワンピース…　　髪も毛玉だらけで野良猫みたい）

「我慢しろマリー　　うちは貧しいからな それしか用意できなかったんだ」

「それから これを…」

「今回のパーティの借用書だ」

（また借金を…？）

『前の借金も返せてないのに…』

「マリー…？」

「大丈夫です お姉様」

『そうよ 大丈夫』

『今日は私の誕生日』

『新しい服で 髪も石鹸で洗えて』

『うんと いい日だもの』

「お初にお目にかかります アナスタジア様」

「かねがねお伺いしていた噂の通り　　いやそれ以上にお美しい…！」

「どっ どうもありがとうございます」

「どうか私とダンスを…　　そのためだけに運河を越えて参りました」

「あの」

〈ドンッ〉

「本日はお集まりいただき ありがとうございます」

「こちらが本日の主役です」

（そっか…）

『姉の良縁探しに躍起になってたお父様』

『これは破綻寸前の我が家を立て直すための』

『アナスタジア(お姉様)のお披露目会だ』

（みんなのお目当てはお姉様　　…そうよね）

『わたしの誕生日だって　　わたしが主役になるわけがない』

「あーあ……」

『同じ両親から生まれたのに　どうして』

『わたしは醜く生まれてしまったんだろう』

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